[携帯モード] [URL送信]

BL小説「虜」
過去は過去だから
ガウスに案内されて、マリアテレーズが居る部屋に、サーシャを伴って、リグレは入った。



そして、三十数年ぶりに、マリアテレーズを真っ直ぐ見つめる。


艶やかな銀髪。
宝石のような輝きを放つ紫の瞳。

時間が経っても、変わらない美がそこにはある。

リグレは、小さく笑いながら、言った。

「あの月のように、君は美しい」

そんな突然の言葉に、マリアテレーズは、どう返事をすればいいか迷って、結局は沈黙を選んだ。
「………」

「かつて、私は…君に、そう言ったな。だが、今でも、君は美しい。時間は良いように働いたらしい」


退位した後、リグレは一人称を変えた。




あの悲劇から、二人は何もかも変わってしまった。


「っ…」

突然、近づいてきたリグレの手が、マリアテレーズの顔に触れる。


「マリー。私は君に聞きたい事がある」

まるで、昔に戻ったかのように、穏やかな顔で、リグレは言った。


だが、リグレの手から逃れ、マリアテレーズは後ろに下がりながら、答える。

「…一体、何をお聞きになりたいのですか?」

リグレの突然の行動に、戸惑っているマリアテレーズに、リグレは空に浮いた手を下げて、後ろに控えているサーシャを呼んだ。


「サーシャ」
「はい」

サーシャは、手に持っていた包みをマリアテレーズの側に控えるガウスへ渡した。



「っ!?」

ガウスは、包みを開けると、思わず小さく声を出したが、すぐにマリアテレーズへ包みの中身を渡した。








「こ、これは…」


「これは好きであったろう?」

「え、えぇ」



小さな瓶に入った桃色の液体。


それの正体は、甘い口当たりの果実酒。


しかし、それ単体では、かなり度数が高く、あまり、女性は口にしない。


だが、マリアテレーズは、昔からその果実酒を好んで飲んでいた。




「覚えておいででしたか」

「当たり前だ。婚約者だった君の好みを私が忘れる筈はなかろう」


「っ!?」



マリアテレーズは、真っ直ぐ自分を見るリグレから、視線を外した。










マリアテレーズとリグレは、かつて相愛の婚約者同士だった。





[*前へ][次へ#]

8/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!