BL小説「虜」 戻らない時間 (リグレ様…) 過去が戻ったかのようだ。 マリアテレーズの心の中で、悲しみと嬉しさがない交ぜになる。 だが、次の瞬間、マリアテレーズは、蠱惑的な笑みを浮かべて、小瓶をサーシャへ投げると。 「リグレ様、お返ししますわ。今の私には、必要の無い物です。それにしても、過去を懐かしみに来られたのでしょうか?私、暇ではないのですが…」 と、挑発気味に言った。 小瓶を投げられたサーシャは、何かを言いたげな顔をしたが、リグレが手でそれを遮る。 一方、マリアテレーズも、心の中で。 (この身に受けた悲しみも、数々の他者からの侮辱も、無かった事には出来ません。私は、過去に浸る事も、出来ません。リグレ様…、ですが、これだけは確かです。私は、マリアテレーズは、貴方を誰よりも、愛していました) と、呟く。 リグレは、先ほどの穏やかな笑みとは違って、今度は弱々しい笑みを浮かべて、言った。 「マリー。私は、弱い…愛する女一人、守ってやれなかった男だ。そんな男の最初で、最後の君へのある願いを聞いて欲しい」 いつもとは違うリグレの様子に、マリアテレーズは聞いた。 「願い…ですか?」 「あぁ、聞いてくれるか?」 少し、考えたあと、マリアテレーズは言った。 「内容によります。どうぞ、仰ってください」 何を言われるか、分からなかったマリアテレーズだったが、そのあと、リグレの口から、驚くべき事を聞いた。 「り、リグレ様…それは、本気ですか?…」 「あぁ…、君なら知っているんだろう?あの子の居場所を!!…」 マリアテレーズに、リグレが伝えた願い。 それは…。 「ゼルフィードの子に、私は会いたいのだ。君が隠したのだろう?マリー…」 というものだった。 [*前へ] [戻る] |