BL小説「虜」
2
赤ん坊の母は、自身に迫りくる死を気にもせず、壮絶なる気迫で、マリアテレーズを圧倒した。
声を出す事も、まして起き上がる事すら苦痛だろうに、強さを失っていない、その蒼い瞳は、ある決意を宿していた。
ー我が子を生かしたいー
それだけを願っている姿。
そんな姿に、珍しくマリアテレーズは少しだけある事を思った。
マリアテレーズとて、自らが望んではいなかったとはいえ、二人の子を産んだ身だ。
生まれた子に、罪はないと、母親として愛情を与えてきた。
だからこそ、母親として、なんとしても、我が子を守ろうというその気持ちに、共感した。
だが、罪を罪とも思わず、権力を維持する事だけに終始している今の自分は、一瞬だけ共感はしても、また違う事を考えた。
今更、一つ罪が増えたとて、どうという事は無い。
腕の中に居る赤ん坊を生かすという選択。
それは帝国に、いらぬ波紋を生むという事を示している。
国の中核たる自分が、いつ国を脅かす存在となるか分からない火種を生かす事を人々が知れば、マリアテレーズを責めるだろう。
これを大罪と言わずに、世間は一体、何を大罪というのか?。
そう思った瞬間、得体の知れない何かが、マリアテレーズを支配し、ある種の背徳感が背を走った。
ゾクゾクとしたその感覚に、マリアテレーズは妖艶さを滲ませた笑みを浮かべ。
「安心するが良い。お前の子。この子は、私が責任を持って、生かしてやろう」
と、言った。
すると、初めて赤ん坊の母親は優しく笑った。
笑みに見える安堵の表情に、マリアテレーズは、ある過去を重ねた。
(ユリエス…)
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