BL小説「虜」 〜様々な絆〜 自室で、ワインを飲みながら、マリアテレーズは、ある事を思い出していた。 「あの二人、ゼルフィードとアリファエル。親子としては、似ても似つかないと思っていたのに、時間とは不思議だな。共に過ごすと…似るということか…」 マリアテレーズは、笑みを噛み殺し、あの言葉を思い浮かべる。 それを言われた日の事は、まるで昨日の事の様に、思い出す事ができる。 『私は…、どうしても、諦められません。どうか、どうかっ!!どうか、助けて下さいっ!!』 身重と分かる者を連れ、普段は足すら向けた事の無いこの離宮へと、駆け込んできた哀れな姿。 「ゼルフィードに、当時のあれには、味方は少なかった。だからと、土壇場で、この私を頼るとはな…」 可愛くも無い義孫の懇願。 普段なら、取り合わぬ所だが、あの時のマリアテレーズは。 「まぁ、頼られて悪い気はせぬものだ」 と、義孫を受け入れた上に、罪と知りながらも、マリアテレーズは躊躇うことなく、産まれてはいけない子の出産に助力した。 生きていれば、災いのタネにしかならない存在。 ただ一度だけ、抱き上げた小さな赤ん坊。 それは親の二人にとっては真実の愛の証。 だが、他人にしてみれば禁忌。 弱い赤ん坊。 もし、あの時。 マリアテレーズが、赤ん坊を床に叩きつけていれば、すぐにも絶命しただろう。 でも、マリアテレーズは、そんな事はしなかった。 否、出来なかった。 と、言った方が正解だろう。 「まさに、母は強しだったな」 瀕死の筈の相手から放たれる気迫に、マリアテレーズは負けた。 否、負けるしかなかったのだ。 [次へ#] [戻る] |