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Honey Flower(本編+SS)
8
「ね、雲英。この人がオバケだったんだよ」

 横にしゃがんで紫陽花の顔を覗きこんで、菫はぽつりと言った。

「この人が、青とピンクの花が咲いてるあの場所に立ってたんだ。僕の話、信じる?」

 わけがわからない。
 膝にいる紫陽花は、意識は失っているものの、透明でもない。
 ここで菫と問答をしている場合ではない。

「車に運ぶ。菫、ついてこい」

 頷いた菫を伴って車に紫陽花を横たえていると、遠くから救急を知らせるサイレンが聞こえた。









 極彩色の、蝶が舞う。

 熱帯の花にぐるっと囲まれて、雲英はもの言わぬ状態になった『花』紫陽花を見つめていた。

 さらさらとした髪が頬にこぼれ、何色かを封じこめた瞳は閉じたままだ。
 幽霊として立っていた紫陽花は、その両眼を開いていたのだろうか、と疑問が過ぎる。

 都真があらかじめ、遠隔でエネルギー源を遮断した紫陽花は、自分からはぴくりとも動かない。
 幾つもの管を繋ぎ、そのうちの一本から、雲英は時折栄養剤を注入してやっていた。
 透明の管を液体がたどっていくのを、隣で菫が不思議そうな顔で見つめている。

「紫陽花、死んだの?」

「死んでない」

 菫は死を理解しているんだろうか。
 そもそも『花』にとって死とは何なのだろう。
 主人は老い、確実に生を消費していく。
 かたわらに在る『花』は、そばに添えられているだけで、同じ時間を費やしているわけではない。
『花』を手に入れられたのだから、当初の主人は羽振りも良かったのだろう。
 だが、だんだんと収入源が頼りないものになり、体調も芳しくなくなった。

(困窮した状態にしては、紫陽花は美しいままだった)

 紫陽花は、よほどの情を傾けられていたのだろう。
 そして紫陽花のほうも、主人に応えていた。

 主人は、死に近づくおのが器(体)のそばで、紫陽花に何を思ったのだろう。
 自分がいなくなった時間に置きざりにしていくことを、心辛く感じたのだろうか。

「ご苦労だったな、雲英。オーナーは助かった。入院して、治療を受けている」

 かつかつと靴音を響かせて、都真が入ってきた。
 背後にソウも従っている。

 まっすぐに紫陽花が横たわるガラスケースにやってきて、その体に触れて診る。

「こっちも大丈夫そうだな。再起動させた後も、エラーがない」

 意識を戻さずに、哀れな主人の姿を目の当たりにしないように。
 都真は紫陽花に最新の注意を払って動いていた。

「起動しているのか? これで?」

 ガラスの棺で昏々と眠る紫陽花が、動き出すようにはどうも思えない。
 眠ったままの紫陽花の指を握って、菫は都真を見上げた。

「もう、半分透明じゃないね。良かった」

 疑問はまだ残る。
 紫陽花はおそらく、倒れた主人を助けようと現れたのだろう。
 低木の影にいたのは、実体だったのか?

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あきゅろす。
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