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ハルノヒザシ
3
一息ついた後、置いてあったスーツに着替えて夏と俺はお爺さんの部屋に挨拶に向かうことにした。歩いているとしばらくして見える屋敷の奥の間に続く重厚な扉。俺は丁寧にその扉をノックする。

コンコン。
「こんにちは。春日と夏月が参りました」

少しの間を置いて「入りなさい」と中から声がする。
「ん」
ちらり、と夏を見上げると軽く夏が固い表情のまま頷いた。
俺は意を決して扉を開ける。
「ご無沙汰しております。お爺さん」
細心の注意を払いながら、失礼のないように俺は部屋の中に入り、丁寧に頭を下げた。
じぃーと俺見る鋭い視線が後頭部に感じられる。
いつも同じだ。隠しもしない、憎しみがこもった視線。
初めて会った六年前から。
この人は、最愛の息子を奪った俺を憎んでいる。

「お前が春日か…」
六年前の火事の後、 病室のベッドの上で目を覚ました俺を見下ろしていた知らない大人の男の人。
子供ながらにその人が、すごく俺に対して怒っていることがわかった。
鋭く俺を睨みつける、威圧的な瞳。
無意識に身体が震え始める。
「だ…れ…」
「私は四季の父親だ。…四季は…返してもらうぞ…」
絞り出すような声で、その人は父さんの名前を口にした。
父さんの父親…お、爺さん…?
怖くてしょうがなかったが、俺はそれよりも気になることがあった。
四季を返して…もらう!?
じゃあ、じゃあ父さんは、あの火事のなかを…

「生きてたんだ」


父さん。よかった。生きてたんだ。よかった。よかった…。
じわりと涙が滲んでくる。


「四季は死んだ」

え… 。
バタンとドアが閉まる音。
ぽたり、と手に落ちた涙は暖かかった。

あれから六年。
その瞳は何も変わらない。


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あきゅろす。
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