ハルノヒザシ 3 「行くぞ、前田」 「うん」 音羽と走るのは何回目になるだろう。 体育祭の時は毎日のように練習として、走らされていたが、七月に入ってからは全然だ。当たり前だけど。 クラウチングスタートの体制を取る音羽に習い、腰を屈めながら、スタート前の緊張感で妙に鮮明になってくる頭でそんなことを考える。 「位置について」 「よぉーい」 「どん!」 弾かれたように、走り出す。 速い。 多分、音羽はずっと走り続けていたはずなのに。 疲れた様子も見せず、俺をぐいぐいと引き離しにかかる。 簡単にさせるか、と俺も必死で追いすがるが 前と同じく、100メートルを過ぎた辺りから 完全に抜かれ、後は音羽の背中を追いかけていくだけ。 ゴールラインを駆け抜ける、その刹那まで。 ザザザザザッ! 砂煙を上げながらゴールラインを駆け抜けた音羽。 そのまま十数メートル走って、ようやく足を動かすのを止めた かと思うと 今まであんなに走って、動いていたのが嘘のように ぷつん、とスイッチが切れたかのごとく その場に崩れ落ちた。 「!」 やや、遅れてゴールラインを駆け抜けた俺にはもちろん全ての光景が見えていて 慌てて駆け寄って行ったものの 既に俺も体力の限界で、立っていられずにその場に膝をつく。 「お、とわ…」 ぜぇぜぇと肩で息をつきながら、それでも音羽を見ると 同じく音羽もはっはっ、と肩で、全身で、息をつきながら かはは、と 心底楽しそうに笑っていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |