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ハルノヒザシ

兄貴が俺を見ていた。

幼児用ベッドの中に閉じ込められて泣く俺を。
ベッドの柵を掴んで、柵越しに顔を近づけて。
じぃっーと俺を見ていた。
「うわぁぁぁぁぁん。うわぁぁぁぁぁぁんー」
声の限りにぎゃあぎゃあ泣き叫ぶ俺に
柵の間から小さな手を伸ばして。
くしゃくしゃと頭を撫でる。
その暖かさに俺が少しだけ泣きやむと

「なつ。にー、ここよ」と

兄貴はたどたどしく言って、幼い微笑みを俺に向けた。

「にい!!にいいいい!!!」
出して!ここから出して!抱っこして!!一緒にいて!!ねぇお願い!!と必死で伸ばした俺の手を、小さな掌が包んで。ふわふわした兄貴の頬に当てた。きゅっと俺の手が握りしめられる。

「なつ。よいこね。なかないのよ」

俺を気遣うその瞳。

何歳頃の記憶だろうか。
俺は目を覚ました。
俺の一番古い記憶。
兄貴だってまだほんの小さな子供なのに。
もう、兄貴は兄貴だった。
ほんの一年と少し先に生まれただけで。
兄貴は俺の兄貴をしなければならなかった。
それから十数年経って。
俺が兄貴より大きくなっても。
俺は弟で兄貴は兄貴のまま。
俺の兄になるために兄貴がどれほどの我慢をしたかわかっているはずなのに。

その日はもう、眠れることはなかった。


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