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ハルノヒザシ

かなり長身なその人を、えっちらおっちら保健室前まで連れてきて。
やっと着いた、と保健室に入った瞬間、俺は戦慄した。
「やあ。春日君だ。どうしたの?」
保健室の中にいたのは、保健医の先生ではなく、今年度保健委員長徳永先輩その人だったから。
どひゃあと叫んで逃げ出したいが、病人を背負っているのでそうもいかず、俺はどうしようと立ち尽くす。
「どーしたのこの子」
「あの、あの、気分悪いみたいで…熱もありそうで…、あの、保健の先生は…?」
「さっきケガした奴がいてさ。付き添いで病院行っちゃったよ」
タイミング、悪いっと俺が内心叫んでいると、ゆらりと、座っていた先生の椅子から立ち上がり、歩いてくる徳永先輩。
舌なめずりでもしそうなその視線に、ひいいと俺は震え上がった。
「あ、ほんとだ。熱いな。熱あるね。これ。はい、春日君お疲れ。そこ寝かそ。布団めくって」
勝手に失礼に怯えている俺を尻目に、徳永先輩はもう腕ががくがくだった俺から彼を引き受け、俺にベットを顎で示す。
前もこんなことあったな、なんだっけな?とそんなことを思いながら、俺は大人しく委員長の指示に従った。
「えーっと体温計と冷えピタはどこだっけな。君、熱以外に何かある?」
「ん…頭痛と吐き気が少し…。多分これ、寝不足と低気圧で身体が痛くて…」
意外とてきぱき保険委員長をやっている徳永先輩をぼんやりと見ながら、確かに俺も背中疼くな、天気悪くなるな、と考えてると、「ほら、測ってやって」と徳永先輩に体温計を投げ渡される。
「ごめんなさい…迷惑かけ、ちゃって…」
「んーん。全然、大丈夫です」
熱で潤んだ目で俺を見ながら謝るその人は、まるで昔の彫刻みたいな端正な顔立ちをしていた。一緒に歩いていた時に気付いたが、身長もかなり高い。180はゆうにあるだろう。三好とはまた系統が違うけど、かっこいい男の子だった。でも……。
「38度か。はい、お薬。2錠ね。はい、お水。はい、冷えピタ。おでこだして。これ、外して大丈夫?」
「あ、俺、こっちの目、ないんで……」
彫刻みたいに端正なその子の右目は、徳永先輩が指差した黒い眼帯で覆われていた。
両手には、学生服には異質な黒い手袋。少しくつろげられた胸元からは、どうかんがえても刃物で付けられたような太い傷が何本を見えた。よく見れば、首にも、腕にも傷がある。
もう俺も8カ月もここにいるのだから、こんだけ特徴がある人が同学年にいたら、いくらクラス離れていても気付いたような気がするけど…。A組かB組かな。棟違うから。
ちょっとした衝撃発言に、ドキドキしながら、帰るタイミングを見失ってしまった俺は、二人のやり取りを眺める。
「少し、寝な。まだ俺いるから」
「はい……」
そう言って目を閉じるその子。徳永先輩は、布団を直してやっている。
意外と優しいのかも、と、ぼけっとみていると、徳永先輩と目があった。
「ふふ。何見てるの。春日君…」
「あの…その子、大丈夫ですか…」
「ああ、平気でしょ。久々に来たね。一年振りくらいか」
ああ、そうだったんだ。徳永先輩この子のこと知ってたんだ。じゃあ、大丈夫、かな?でも、二人きりにするのは、少し…
立ち去ってもいいものか迷って、おどおどしていると、徳永先輩はにやりとそんな俺を見て笑った。
「心配無用だよ。俺背が高い子は趣味じゃないんだ。病人組み敷くのも趣味じゃない。ちゃんと保健委員やるさ」
ふふふ、と笑いながら徳永先輩にそんなことを言われると、ベッドを挟んでいるとはいえ、ぞっと寒気がした。
「ちなみに春日君は俺のタイプだよ。初心そうでさ。怯えている君を押し倒すのはとても楽しめそうだな」
病人がいる保健室だというのに、流れるようにとんでもないことを言い出す徳永先輩。保健室を出るためには、徳永先輩の横をどうしても通らなければならず、俺は硬直してしまった。徳永先輩はそんな俺を見て面白そうに唇を舐めた。
「ねぇ、せっかくだから一回しない?絶対気持ちよくしてあげるよ。最初は嫌がる子もいるけどさ、最後はよくって泣いちゃうんだから。気持ちいいこと興味ない…?」
「きょ、きょ、きょ、…み、ない、です…」
ぶんぶんと頭を振り、俺は無意識にじりじりと後ろに逃げた。すぐに隣のベッドに腿が触れて、俺はベットに尻もちをついてしまう。
「うふふ。誘ってんの、それ。いいねぇ。ただ病人の隣のベッドってのはダメだね。これでも保健委員長だからさ。こっちのソファおいで。声は抑えようね」
スラスラとセクハラ発言をつづけなから徳永先輩が俺の肩に触れた時だった。
がちゃり、と保健室のドアノブが廻る音がした。
俺は涙目でそちらを振り向く。


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あきゅろす。
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