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ハルノヒザシ

「ほら見て!舌ピアス開けたんだよ!可愛いでしょう!」
「どれどれ、うげっ、痛そう…」
「平気だよう!血はもう止まったしね」
ひとしきり、くるみちゃんの身体をはらい終えた後で、おしゃべりしようと校舎の土台部分のコンクリートに二人して横並びで腰を下ろすと、くるみちゃんが「んべ」と俺に舌を突き出して来た。
どれどれと覗き込むと、赤い舌の真ん中に二つ。銀の丸いピアスが並んでいて、触れるとかちんと音をたてそうだった。
「スプリットタンやろうかなと思って。それかホリゾンタルタン開けたいんだー」
「なーに?それ。ほりぞんた?」
「スプリットタンは舌先切り込み入れて蛇みたいにするヤツで、ホリゾンタルタンは舌に横からピアスを貫通させるの」
ひい、聞いてるだけで痛いよ!と顔をしかめる俺を見て、くるみちゃんはけらけら面白うそうに笑う。
「平気だよ!はるちゃん先輩もピアス開けようよー。俺お揃いでしたいなー。なんか可愛いヤツ」
そう言ってくるみちゃんは、自分の右耳のピアスに触れた。そこに光っているのは、こないだ俺がくるみちゃんのリクエストで作ってあげたリボンの形のピアス。普通の男の子じゃ絶対似合わない形だけど、くるみちゃんの可愛い顔にはお世辞じゃなく自画自賛じゃなく似合っていた。
でもね、なんでだろう。沢山のピアスが光る君はどこか痛々しい。
痛くないよと笑う顔も。平気だよ、大丈夫だよと笑う顔も。
「俺には、きっと似合わないもん…」
「そんなことないよ!絶対似合うよ。はるちゃん先輩可愛いもん!ピンク色の石とかいいなあ」
「痛いの怖いから、やだ。ごめんね」
「耳はそんな痛くないよー。でも、はるちゃん先輩が嫌なら仕方ないね」
「耳はそんなにって。他は痛かったの…?」
「あー、まーちょっとね。ちくっとするくらいだよ!俺痛いの好きだし!」
ふと聞いてみた俺に、くるみちゃんはまた笑顔で応える。
「す、好きなの?。で、でもさ、さっきの舌のとか腫れたりしないの?熱が出たりとか…」
「あはは!はるちゃん先輩たら心配性!平気だって、俺ね、強いからー!」
はるちゃん先輩もそう思うでしょー?と正面を見ながら笑い続けるくるみちゃんの横顔を見ながら、俺はまだ引き下がらない。
「あの、あのさ。さっきの舌を切っちゃう奴とかさ、戻らないんじゃないの?」
「そーだけど…。でも、したいんだもん。面白そうだし」
「面白くても、やり過ぎは、よくないと思うよ」
これはかなりお節介かも、と思いながら俺が言った瞬間、くるみちゃんがふいに顔をこちらに向けた。かたんと音がしそうなくらい、人形みたいな動きで。

「今の、俺に言ったの?」

あっという間に笑顔をひっこめて、人形のように目を見開いたくるみちゃんの真顔。無機質な声。無邪気な光が消えた瞳。
突然辺りに漲った緊張感に、突然のくるみちゃんの豹変に、俺は思わずびくついた。
(風間に近づくなって言ってんだろ!アイツは頭のネジ締め忘れた基地外やろーなんだよ!!)
いつだか夏が俺に怒った言葉が、頭の中に蘇ってくる。
(これが、くるみちゃんの本来の顔……?)
瞬き一つしないカラーコンタクトを入れた瞳の間近に光るピアスが鈍く光っていた。
くるみちゃんはもう一度言った。
「ねえ。はるちゃん先輩」


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あきゅろす。
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