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ハルノヒザシ

身を起こすと三好の顔がすぐ目の前にあった。
長い長いまつげに縁取られた大きな瞳に俺だけが映っていた。
(…え…)
今なにか…口に触れたような…。
軽く自分の唇をこすって、指を見てみると、指先に赤い塗料がついている。
なにより、さっきの感触を唇が覚えている…。
(…あ、俺…)
転んで倒れこんだ拍子に…。
三好にキスしちゃった?!
ようやくパニックになっていた頭が動きだし、今の状況を理解する。カッと顔に血がのぼったのがわかった。
「ごごごめんなさいっ!!」
飛び上がるように、乗っかったまんまだった三好の身体から、俺はどく。
そのまま二、三歩下がってどうしようとおろおろしていると、三好が黙ったまま身体をゆっくり起こした。
「ごごめんなさい。どっか痛くない。大丈夫だった?」
「平気。大丈夫」
もう一度三好に駆け寄って、おろおろしながら声をかけると、三好は前を向いたまま短く答えた。
その髪の毛は少し乱れてて、さっきひいたばかりの口紅も滲んでいる。
(どうしよう、三好怒ってる?)
俺が転んだくせに三好をクッションにして自分はちゃっかり無事なんて。しかも、同性のくせにキスまでしてしまうなんて。
怒らないほうがおかしいくらいの状況だ。
「ごめん。三好。本当にごめんなさい…」
謝りながら、黙ったままんまの三好の顔をおそるおそるのぞきこ
むと、三好は瞳だけ動かして俺を見た。
「うう…」
なんだかその動作に迫力を感じて、俺の身体がびくりと反応する。
今の三好は綺麗な分、更に凄みみたいのが増していて、黙っていると思わずひれ伏してしまいそうなくらいのプレッシャーだ。
「ごめん…、本当にごめん…」
押さえてないと震えだしてしまう口元を手で押さえながら、俺はただひたすら謝る。
「……」
そんな俺をじーっと見つめる三好。
しばらく俺を凝視した後、ゆっくりと右手で自分の唇に触れた。
三好の指先にも赤い塗料が付着する。
今度はその指先をじっと眺めた後、顔をあげてこう言った。

「はは、俺、ファーストキスだったよ」
前田に奪われちゃった。

にこり、と笑う三好。
わあああぁ、俺は何てことを…。
「ごめん、三好。本当ごめん!」
俺はただただ三好に謝り続けた。


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