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ハルノヒザシ

「動くなよ。俺ただでさえ不器用なんだから。刺さるかも」
「う、うん」
そんなこと言われると余計に怖くて思わず俺は、唾を飲み込んだ。
肌に刃が当たる冷たい感触。
俺はぎゅっと目を瞑り、息を止める。
ジャキ、というハサミが閉じる音がした。
続いてジーッとファスナーが動く音。
「開いたよ」
「助かった…。ありがとう三好」
やれやれ、とチャイナドレスを身をよじりながらようやく身から離す。
三好に着せる前にちゃんと確認しとかないとな。
いそいそと着替えながら、糸切りバサミをしまっている三好の背中を見ながらちらりと思った。
「前田他にもあーゆーの着たことある?」
着替え終わって今日はもう寝ようとチャイナドレスを畳んでいると、その様子を眺めていた三好から質問された。
「あーゆーのって、女の子の服?」
「うん」
「あるよ。セーラー服とかスカートとか」
家庭科部の女の子と喜介に組まれると俺に逆らう術などなかった。
俺に無理矢理セーラ服を着せ、代わりに俺の学ランを女の子達皆で「学ラン着てみたかったんだよねー」とか言ってかわりばんこに着てはしゃぐもんだから中々脱がせてもらえず部活中ずっとセーラー服だった覚えがある。
「違うよ!!俺が進んで着た訳じゃないよ!! 」
「別にひいてないよ。見たいな。写真とかないの?」
「うう…、多分地元の友達が写メってたから持ってるかもしんない…」
聞いてみる…と俺が携帯を取り出すと「そこまでしなくていいよ」と三好に止められる。
「どーでもいいけど、なんか前田数日前から俺にめっちゃ優しいよね」
「そう…?」
「うん。なんでも言うことを聞いてくれてんじゃん。大人しくチャイナドレスまで着てくれて」
バレてる…。
「普通だよ」
「わかりやすいって。はは、お姫さまになったかいがあるもんだよ」
にやりと笑う三好。
女装させ、複雑ながらとても楽しみにしてしまう俺の後ろめたさなんかとっくにお見通しらしい。
「人がいいんだから。前田は」
「そんなことないよ」
「そんなこと言いつつ俺の言うこと今はなんでも聞いてくれんだろ」
「んー、わかんない」
「はは。冗談だ。そんな困った顔しないで。俺は普段から起こしてもらってご飯作ってもらって、細々世話やいてもらって大分お姫さま扱いしてもらってるからね」
だからね、普通にしててよ、前田。俺に気を使わないで。
そう言って三好はニコっと笑った。
(あ…、わかった)
さっき三好がとても魅力的に見えた理由。
そのまま、三好の心が出てたんだ。
優しさが、思いやりが。
いつも他人を気づかっている心が。
ぶわっと暖かいものが胸の中に広がる。
「み、みよしー!!」
「わ、なんだよ。前田」
「なんで三好はそんな良い子なのー」
ガバッと俺は思わず三好に抱きついた。

知れば知るほど
君を好きになる。

「いきなりなんなんだ!!」
いきなり抱きついてきた俺に驚いて、顔を赤くするのは次は三好の番だった。


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あきゅろす。
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