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ハルノヒザシ

「部屋はここ使ってね。服、一応二人の分言われたサイズ用意したけど、何かあったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます。あの…お爺さんは…」
「奥の間にいるよ。多分今なら行っても大丈夫だと思うよ」
じゃあ、また後でね。
そう言って俺達を部屋まで案内した後、また準備に戻ってしまう冬馬叔父さん。
俺達は二人、薄暗い和室に取り残される。
その足音が聞こえなくなった時、はぁと後ろで夏の大きな溜め息が聞こえた。
続いて少し乱暴に、荷物を置く音。
「あーあ来ちゃったよ。早く帰りてー」
不機嫌そうな声でそうボヤく。
「そう言うなよ。叔父さん好い人じゃないか」
「叔父さんは別にいいんだけどさ…俺この家の雰囲気嫌いなんだよね。かたくるしくってさ。はぁあ、これ着ろっての。ばっかみてぇ」
そう言って夏は置いてあった新品のスーツを軽く足で蹴飛ばした。
「やめなよ。皺になる」
「別に俺はしわしわでもビリビリでも構わねーもん」
そんな夏をたしなめながら、皺を直す俺をふん、と鼻を鳴らしながら見下ろす夏。 昨日とうって変わって今日は朝からずっと不機嫌だ。無理もないけど。俺だって気が重い。
「他人の家の臭いがする。いやな臭い」
そう言ってきょろきょろと辺りを見渡しながら、パッと夏は障子をあけた。隣にも同じような何もない和室。そしてきっとその隣にも。
「相変わらず馬鹿みてーに広いな」
憎々しげに夏は一言呟いた。

今日は父さんの七回忌。
俺達はお爺さんに呼ばれてお爺さんの家に来ている。
この前田家は代々政界にも人物を輩出してきた家系で、お爺さんも少し前まで政界の要職についていた。
俺達の父さんは、この名門の家に長男として生まれ、将来をとても有望視されていたというが、大学の時、突如としてかけおちし、姿をくらましてしまった。
お爺さんが四方八方手を尽くして見つけ出した時、父さんは母さんと結婚して、俺が生まれていた。
だからお爺さんは父さんに前田家を継がせるのを諦めて、叔父さんである冬馬さんに後を継がせたため、俺達は一切この家と関係なく暮らしていた。

父さんの死んだあの日まで…。


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