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ハルノヒザシ

「嫌だ!!俺は行ねー!!」
「そんなこと言わないで。きっとすっごく楽しいよ」
今年の2月。俺はいつものように駄々をこねて兄貴を困らせていた。
「行かねったら行かねー!!」
「夏…。どうして…?お弁当夏の好きなものなんでも入れてあげるから」
「別に行かなくとも食えんじゃん!!絶対俺はいかねーから」
そう言って床に叩きつけたのは、修学旅行のしおり。
俺の前に行ってた中学は2年の冬に修学旅行がある学校だった。
行き先は…京都。
別に寺や神社なんてどうでもいい俺は京都なんて楽しみでもなんでもなかった。
それに…
同じ中学に通っていて、当然京都に行ったことのある筈の兄貴は、京都に言ったことがなかったから。
「あんたを旅行に行かす金なんてないのよ」
そう言ってあのクソババアは自分の服は買う金があるくせに、一切の兄貴の遠足や旅行の金を払わなかった。だから兄貴は小学5年生から一切、そういう類いの行事に参加していない。
一人でぽつんと図書室で自習ををしていた兄貴の寂しそうな背中を俺は忘れられない。
しかも腹がたつことに、クソババアは俺にはそういうことをしなかった。ますます親父に似てくる俺を少しでも家から遠ざけたかったのだろう。
そんな旅行に誰が行くか!!
「ほらおこづかい弾むから。八つ橋俺食べたいなぁ」
そう言って差し出される兄貴のバイト代を誰が受け取れるものか。
「嫌だったら!!兄貴が行ってないんだったら俺もいかない」
そう言って背を向けた俺を、兄貴は困った顔で眺めていたんだと思う。
「ねぇ夏お願い。俺、夏がたくさん楽しんできた思い出話聞きたいなぁ」
兄貴はいつも俺が遠足に言った後の思い出話を楽しそうに聞いてくれた。兄貴が遠足に行ってないなんてちびだった俺は長い間気づかなかったから、聞かれるままにいつも話してた。
兄貴だって、あのときはまだ小学生だった。自分だってどんなに行きたかったことだろう。
でも、そんなことはおくびにも出さなかった。
いっつもおいしいお弁当を作って送り出してくるた。
どんなに俺は残酷なことをしたんだろう。
そんな過去の俺の愚かささえも全て憎くて、俺はあの日「行かない!」と叫び続けた。

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