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ハルノヒザシ

「夏、夏が行かないと美智流君たちが寂しがるよ」
「あいつらなんか知らねぇよ!!」
「こんな機会滅多にないし…」
「どうでもいい!!返金してもらった方がマシ!」
そっぽを向いた俺の肩を優しくて叩きながら宥めてくる兄貴を、俺は突っぱね続けた。
ねぇ、兄貴。なんで弟の俺ばっかりとか思わなかったの?悲しくなることはなかったの?悔しくなることはなかったの?
羨ましくなることはなかったの?なんで自分ばっかりと思うことはなかったの?
俺が呑気に楽しかったと行ってる時、自分が行けなかった場所に遠足に行く弟の為に弁当を作っている時、一人学校に取り残されている時、どんな気持ちでいたの?
なんで俺には何にも言わず、いっつも笑っていてくれたの?

わかってるんだ。もちろん。
全部俺のためだって。

でも俺は…。兄貴がそんな思いしてるの知ってたなら。絶対に行かなかった。自分だけなんて嫌だった。どんなに楽しくても。

「兄貴だって行きたかったんでしょ!!京都!」
兄貴はそういうの好きだもんね、と俺は自棄気味に叫んだ。兄貴が行けばよかったんだ。俺じゃなく…。
「だから、夏先に行って見てきてよ」
そして、いっぱい写真撮ってきて。
そうして兄貴が差し出して来たデジタルカメラ。働いてる喫茶店のマスターに借りたと言っていた。 わさわざ借りて来てくれていた。 いつだって俺のために…。
「いつか俺とも京都行こう」
夏が楽しかったところ、俺にも教えてね。その時は…。
俺の背中に頭を預けながら、柔らかい声で言った兄貴の言葉が何度も何度も俺の中にこだまして。
俺は結局京都に行った。
仲がいい奴らと行った旅行はなんだかんだて楽しかった。
お土産もたくさん持てるだけ買ってった。
兄貴は俺が撮った大量の写真を一枚一枚丁寧に見ながら、俺の話を楽しそうに聞いて、八つ橋を頬張っていた。

「いつか俺と京都行こう」
その言葉が叶った今日という日は
俺にとって最高の誕生日プレゼント。

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