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ハルノヒザシ

「行くぞ、前田」
「うん」
音羽と走るのは何回目になるだろう。
体育祭の時は毎日のように練習として、走らされていたが、七月に入ってからは全然だ。当たり前だけど。
クラウチングスタートの体制を取る音羽に習い、腰を屈めながら、スタート前の緊張感で妙に鮮明になってくる頭でそんなことを考える。

「位置について」

「よぉーい」

「どん!」


弾かれたように、走り出す。
速い。
多分、音羽はずっと走り続けていたはずなのに。
疲れた様子も見せず、俺をぐいぐいと引き離しにかかる。
簡単にさせるか、と俺も必死で追いすがるが
前と同じく、100メートルを過ぎた辺りから
完全に抜かれ、後は音羽の背中を追いかけていくだけ。
ゴールラインを駆け抜ける、その刹那まで。

ザザザザザッ!
砂煙を上げながらゴールラインを駆け抜けた音羽。
そのまま十数メートル走って、ようやく足を動かすのを止めた
かと思うと
今まであんなに走って、動いていたのが嘘のように
ぷつん、とスイッチが切れたかのごとく
その場に崩れ落ちた。
「!」
やや、遅れてゴールラインを駆け抜けた俺にはもちろん全ての光景が見えていて
慌てて駆け寄って行ったものの
既に俺も体力の限界で、立っていられずにその場に膝をつく。
「お、とわ…」
ぜぇぜぇと肩で息をつきながら、それでも音羽を見ると
同じく音羽もはっはっ、と肩で、全身で、息をつきながら

かはは、と

心底楽しそうに笑っていた。

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