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ハルノヒザシ
8・(夏月視点)
電車に揺られて三時間半。
ずっと窓の外を見ていた俺だか隣からすうすうという寝息が聞こえて来るのに気が付いた。
チラリと横を見ると兄貴が無防備な顔をして眠っている。

無理もない。
疲れてるだろうし。

ジッと兄貴の寝顔を見ているとイヤでもその唇の傷に目がいってしまう。
赤い唇を覆う痛々しい痕。
壁にぶつかって自分で噛んだとかへらへらしながら言ってたけど。
ちゃんと俺、理由知ってるんだよ。
知らないだろうけどね。
俺相手に誤魔化しきくと思ってんのかな。
俺は手を伸ばして兄貴の唇を指でなぞる。
そのまま俺はキョロキョロと辺りを見回した。
海沿いを延々と走る三両しかない田舎路線。
対面式の椅子にポツポツと人の姿も見えるがここは一番端の席だし大して目立たないだろう。
よし、今なら…
キス出来る!!
そう確信した俺は兄貴の顎を掴むと起こさないように上に向けさせる。
何にも知らずに眠り続ける兄貴。
うー可愛い。

そのままゆっくりと俺は自分の顔を近付けて行く。

だが…

唐突に兄貴の目が開いた。
やっぱりなかなか上手くはいかない。
「夏!何してんの!」
バッと身を放されてしまう。
「あー、惜しい!後少しだったのに」
ケラケラと笑いながら茶化すように俺は言う。
「もう、俺にはお前が何考えてんだかわかんねぇよ」
はぁーとため息をつきながら兄貴が呆れたような目で俺を見た。

何考えてるって?
兄貴の事に決まってんじゃん。
いつでも、さ。

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あきゅろす。
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