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RAPTORS

 薄暗い部屋に、男が二人居る。
 こじんまりとしたその部屋には、机や椅子などがあり、応接間のようである。
 二箇所ある窓はカーテンが光を遮り、昼間だというのに薄暗い。
 二人は机を挟んで碁を打っている。
 時たまパチリと碁を置く音が響き、それと同じような間隔で低い話し声がする。
「そう言えば」
 黒石を持った男が話を切り出した。
「飼い犬に手を噛まれたそうだな、緇宗」
「甘噛みですよ」
 軽く笑って白石を持った男――緇宗が言った。
「何人か殺されたと聞いたが」
「大した事はありませんよ。所詮子犬だ」
「で?どうするつもりだ?」
「私が行く間でもありません。ガキの遊びに付き合ってやる暇は無いんでね。ああ、地が陣を敷いて待っている様ですよ。何でも根が出てきたとか」
「根が出た事は聞いている。規模は?」
「全軍出てきたようですよ。あの小僧に根を巻き込むだけの力があるとは思えませんがねぇ。根も何か下心があっての事でしょう」
 パチン、と黒石が音を発てる。
「いかがなさいますか?」
「――所詮、死に損ない共だ」
 言って、立ち上がる。
「完敗ですな」
 苦笑して緇宗が言った。
 ふん、と笑って男は続ける。
「奴らを相手に勝つことだ。二度と反旗を翻さぬようにな」
「畏まりました。陛下」
 男が出て行くのを礼で送り、緇宗は自らも外に出て行った。
 城とは反対側の、軍の宿舎へ向かう。
 緇宗とて今朝聞き入れたばかりだ。
 縷紅の本格的な反逆行為を。
 国に対しては既に背いていた。それが、師である自分にとうとう向いた。
 ――可笑しい。
 それが緇宗の感想だ。
 宿舎の門を潜り、庭を向ける。
 宿所の裏手に回ると、そこに一人の少年が待ち受けていた。
 名は緑葉(りょくよう)。
「お話とは?」
 簡単な挨拶の後、彼は訊いた。
「お前の望みを叶えてやる」
「望み…!?」
「地から、私に挑戦を挑んできた馬鹿がいてな」
「――」
「お前の仇だ。斬りたいのだろう、その手で」
「はい」
 はっきりと緑葉は答えた。
「私の代わりに地に行き――思い知らせてやれ。お前の恨みを」
「分かりました。…感謝します」
 緑葉は頭を下げて宿舎へと入っていった。
「飼い犬ねぇ…」
 緇宗は緑葉が行った方を眺めながら呟いた。
「噛ませんよ」
 お前には――奴を斬れまい。
 緇宗には確信にも似た自信があった。


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