RAPTORS 6 薄暗い部屋に、男が二人居る。 こじんまりとしたその部屋には、机や椅子などがあり、応接間のようである。 二箇所ある窓はカーテンが光を遮り、昼間だというのに薄暗い。 二人は机を挟んで碁を打っている。 時たまパチリと碁を置く音が響き、それと同じような間隔で低い話し声がする。 「そう言えば」 黒石を持った男が話を切り出した。 「飼い犬に手を噛まれたそうだな、緇宗」 「甘噛みですよ」 軽く笑って白石を持った男――緇宗が言った。 「何人か殺されたと聞いたが」 「大した事はありませんよ。所詮子犬だ」 「で?どうするつもりだ?」 「私が行く間でもありません。ガキの遊びに付き合ってやる暇は無いんでね。ああ、地が陣を敷いて待っている様ですよ。何でも根が出てきたとか」 「根が出た事は聞いている。規模は?」 「全軍出てきたようですよ。あの小僧に根を巻き込むだけの力があるとは思えませんがねぇ。根も何か下心があっての事でしょう」 パチン、と黒石が音を発てる。 「いかがなさいますか?」 「――所詮、死に損ない共だ」 言って、立ち上がる。 「完敗ですな」 苦笑して緇宗が言った。 ふん、と笑って男は続ける。 「奴らを相手に勝つことだ。二度と反旗を翻さぬようにな」 「畏まりました。陛下」 男が出て行くのを礼で送り、緇宗は自らも外に出て行った。 城とは反対側の、軍の宿舎へ向かう。 緇宗とて今朝聞き入れたばかりだ。 縷紅の本格的な反逆行為を。 国に対しては既に背いていた。それが、師である自分にとうとう向いた。 ――可笑しい。 それが緇宗の感想だ。 宿舎の門を潜り、庭を向ける。 宿所の裏手に回ると、そこに一人の少年が待ち受けていた。 名は緑葉(りょくよう)。 「お話とは?」 簡単な挨拶の後、彼は訊いた。 「お前の望みを叶えてやる」 「望み…!?」 「地から、私に挑戦を挑んできた馬鹿がいてな」 「――」 「お前の仇だ。斬りたいのだろう、その手で」 「はい」 はっきりと緑葉は答えた。 「私の代わりに地に行き――思い知らせてやれ。お前の恨みを」 「分かりました。…感謝します」 緑葉は頭を下げて宿舎へと入っていった。 「飼い犬ねぇ…」 緇宗は緑葉が行った方を眺めながら呟いた。 「噛ませんよ」 お前には――奴を斬れまい。 緇宗には確信にも似た自信があった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |