RAPTORS 5 「どうなってんだよ…ったく」 一日にして飽きた牢を、ぐるりと見渡す。…何も見えないが。 一人ごちたところでどうにかなる物ではないが、言わずには居られない。 黒鷹が、目覚めると同時にずかずかと入ってきた男達に押さえられ、この牢に放り込まれてから丸一日が過ぎようとしている。 明かりすら無い根の牢は、寝て過ごすしかないのだが。 眠りは大好物な黒鷹も、この環境は堪え難い。 ふと、明かりが見えた。 近付いて来る。 「やっと出す気になったか?」 安堵混じりに訊けば、素っ気ない返答が返って来る。 「一人追加だ」 黒鷹の顔色が変わる。 「隼か!?」 「いえ私です、王子…」 明かりを持った男の背後で、情けない声がした。 敢えて無視して、黒鷹は根の男の方に言った。 「お前ら隼をどこにやったんだ!?」 「知らん。それは私の管轄外だ」 それだけ言って、男は去ろうとする。 「待てよっ!!」 黒鷹の声は、虚しく闇の中へこだまする。 「あ、あの…王子…」 「カタブツ、何大人しく捕まってんだよお前〜」 「す、スイマセン…」 阿鹿はどうやら向かいの牢に入れられたらしい。 「まぁいい。どうせこうなると思った」 「そ、そんな…」 「隼を見なかったか?」 「隼ですか…?いえ、全然…」 「どこにやったんだよ…畜生…」 「王子と一緒では無かったのですか?」 「いや、隼は別の所へ連れて行かれたらしい…。それよりもアイツ…」 部屋から出された時、目に飛び込んで来たもの… 「血ィ吐いてた…」 「――!」 「かなり危ないかも知れないのに…。何もしてやれない…近くにも居られない…」 「王子…」 「何とか…ここを出られないかなぁ…?」 「私にはとても妙案は浮かびません」 「だろうなぁ」 あまりに素直な黒鷹の物言いに、阿鹿は肩を落とした。 「まぁ、それはともかく、カタブツ?」 「はい?」 「すげぇ根本的な事訊いていい?」 「何でしょう?」 「俺達はなんで捕まってんだ?」 「……」 闇の向こうで、阿鹿が絶句しているのが伝わってきた。 「だから、“すげぇ根本的”って言ったじゃねぇか!」 「そうでしたね…」 阿鹿はすっかり呆れている。 「まず第一に、根は地の事を憎んでいます」 「うんうん」 「第二に、根に迷い込んだ者は裁かれ、善悪を測った上で処遇が決められるのが習わしです」 「ふうん」 「第三に、私はお上より、“黒道より入国する者は殺せ”との命を受けておりました」 「ふう……ん?」 相槌を打とうとした黒鷹の言葉が、止まる。 「第二と第三は矛盾してないか…?」 阿鹿は溜息混じりに答えた。 「どうやら根では、王が代わった様ですね…。私が来る以前の事の様ですが。何でも冷酷な王だとか」 「そうなのか…」 ひやりと、冷たいものが背中をつたう。 隼は、その冷酷さによって殺されてはないだろうか…? 慌ててその考えを払拭するように、首を振った。 「とにかく、ここを出なきゃな」 [*前へ][次へ#] [戻る] |