RAPTORS
4
目眩と共に目に入ったのは見慣れぬ部屋だった。
続いて何かが横にあるのに気付き、ゆっくりと首を傾ける。
自分の隣に横たわる、黒いもの。
それが自分と同伴して来た少年と気付き、隼はぎょっとした。
添い寝への疑問より、寝起きへの恐怖の為だ。
今の自分には“あれ”を受けられる自信が無い。
とりあえず起こさない様に細心の注意を払いながら、寝台から出た。
こうなったら自然に起きてくれるのを待つしかない。
折れそうになる足を叱りながら、なんとか外に出た。
いつもの日の光は無く、ガス灯のぼんやりした明かりのみが満ちている。
扉を閉め、それに寄り掛かりながら、ずるずると座った。
自然と深い息が漏れる。まだ目眩と頭痛が続き、呼吸が苦しい。
しばらく座ったままぼんやりしていた。
十五年前、自分はこの国に居た。それこそ断片的で無意味で、曖昧な記憶しか残ってはないが、確かにここに居た。
――傷が…
そっと、布の上から右目を押さえる。
今だに疼く傷。時々痛むのは何故だろう。
――地に、捨てられなければ…。
考えそうになって、慌てて別の事を考える。
その時だった。
前方から数人の人間が駆け付け、背後から大きな何かが落ちた音がしたのは。
隼を囲んだのは、自分と同じ容姿の根の人間だった。
「お前は何者だ?」
「それこっちの台詞…」
囲んだ男の一人が言った問いに、隼は怠そうに目だけを向けて言い返した。
「地から来たのか?」
隼の言葉は黙殺され、別の男から別の問いが降り懸かる。
「地から来て…問題あるか?」
「もう一人居るだろう。そこを通せ」
「嫌だっつったら?」
「どかせ」
一人の男が他の男に命じた。
「おい…あんまり手荒い事すると吐くぞ」
隼の言葉は再び無視され、腕を掴まれてドアから引きはがされた。
そのまま放り出され、地面に横たわる。
激しく咳込み、何か温かい物が口に上がってきたが、もはや動く気になれず出るに任せる。
――赤…。
口の中に鉄の様な、血の味が広がる。
男達が部屋の中に入った。悲鳴が聞こえなかったのは、黒鷹が既に目覚めていたからだろう。
――さては、寝台から落ちて目ェ覚めたか。
先刻の何かが落ちた音と重ねて考えた所で、意識は闇と化した。
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