RAPTORS 14 夜中の急な呼び出しに、鶸は戸惑っている。 それも、“誰にも内緒で”という条件付きなのだ。 目の前に呼び出した張本人。 黒鷹だ。 「何なんだ?」 完全に声が眠たいものになっている。 黒鷹は意味ありげに、にっと笑う。 「お前にプレゼントだ」 急に目は冴える。 「俺に?くれるの?」 「ああ。お前にしかやれない」 鶸の頭は急にフル回転を始めた。 こんな時に、夜中、誰にも内緒で、二人っきり…その状況で、プレゼント。 考え付く物は一つ。 でも!ちょっと待ってくれ!! 「ぅぅぅ嬉しい…けど、な、うん。だけど、えぇと、何て言うか…心の準備が…って言うか、今のお前にまだ慣れてないし…いや、“今の”って変だな…えぇと、その、…お前の正体?いやちょっと違うか…」 「何言ってんだよお前?」 本気で不思議そうな顔で覗き込まれる。 瞬間、鶸は自分の顔が熱くなるのを感じた。 「ゴメン!!ホンットに悪いとは思うけど、まだ俺はお前が女だとは思えねぇんだよ!!だから…その…そういう付き合いは…」 殆んど仰け反るようにして、顔も見れずに叫んだ本心は。 しばらく呆気に取られた顔でまじまじと見られ。 言ってしまった事にじわじわ後悔を感じ始めた頃。 突然の爆笑に吹き飛ばされた。 「…な、なんだその笑いは…?」 黒鷹は呼吸をするのもままらない程、苦しみながら笑っている。 目に涙まで浮かばせて。 酸欠になってヒィヒィ言っている。 一方、今度は鶸が呆気に取られる番である。 …何だかものすごーく恥ずかしくなりながら。 「な、何…?」 混乱する頭で鶸はもう一度訊いた。 「だっ…おま…ちょ…苦し…」 笑いを押さえるのに懸命で喋れていない。 鶸はボーゼンと突っ立ったまま、笑い転げる黒鷹をしばらく見ていた。 漸く少し笑いが引いて。 「はぁ…呼吸困難で殺す気かお前は…」 「し、知らねぇよ!!お前が一人で勝手に馬鹿笑いしてたんだろうが!?」 鶸は珍しく尤もな反論をする。 しかし全く効いていない。 「いやぁ傑作だぁ。人に言えねぇのが惜しいなぁ。いつか隼に教えてやろっと」 「ななな何がだよ!?笑われるような事言ったつもりは無ぇ…よ?俺…」 だんだん自信が無くなってくる。 恥ずかしい自覚ならあるが、それも黒鷹から言ってきた事なのに。 何故だ!? 「何なんだよ、プレゼントって…!?」 「あぁ、お前の期待に添えなくて悪いなぁ。今度なんかそれなりの物…菓子でもいいか?渡してやるよ、義理だけど」 「どーゆー事だよ!?全ッ然分からねぇ!!」 「愛の告白じゃないから安心しろ」 「ち…違うのか?」 黒鷹は自分で言った台詞にまた笑いを押さえている。 一方、鶸は本気で驚いている。 「だって…有り得ね…ヒッ、どうしてお前に…ヒッ」 笑い過ぎて引き吊っている。 「え?え!?じゃあ他の奴!?」 「違うわボケェ!!んなモンじゃねぇよ!!俺をそんな乙女だと思ってんじゃねぇ!!」 怒鳴られたが、逆に。 「乙女…お前が……なんかトリハダ立った」 「…おい」 難儀な少女である。 「…で、結局何なんだよ?」 いい加減、鶸が本題に戻すと。 「お前に渡したいのはな…、ちゃんと受け取れよ?」 「あ?うん」 貰える物は貰う主義である。 「ほんっとにちゃんと受け取れよ?返品不可だぞ?」 「分かったよ、返さねぇって。何?」 「ホントだな?」 「しっつこいなー。何でも貰うって」 念を押しまくった上で黒鷹は頷き、 そして言った。 「王位」 「…は?」 「お前にやる」 「……」 しばらく鶸の全ての動きが、全思考が凍結して。 徐々に溶けてくると。 「なんだってえぇぇぇ!?」 「返すなよ?じゃ」 鶸の心の底からの叫びをさらっと無視して、黒鷹は去って行く。 それも追う事が出来ない程に、鶸はぽかーんとしていた。 [*前へ] [戻る] |