RAPTORS 7 隼と縷紅が放火をした翌朝。 黒鷹達は天と地を繋ぐ山“三界山”の山中に居た。 この山から天までひっそりと進軍しようという作戦なのだ。 董凱は我が子がまだ眠っている事に気付き、起こそうと近寄った。 他の者達はとっくに目覚め、朝食を摂っている。 彼は黒鷹の寝ている横まで来て、“寝顔は母親似でかわい〜な〜”とか、親馬鹿全開の思考を繰り広げている。 いい加減起こしてやろうと思い、毛布を被っている体に手をかけ揺すった。 「起きろ〜。置いていくぞ〜」 “父親ってカンジだなぁ、俺”とか思っている。 それを目撃した鶸が叫び声を上げた。だが。 時既に遅し。 短刀は空を切り、父親にも容赦無く襲い掛かった。 誰もがもうダメだと思った時。 高い金属音が辺りに響き渡った。 「――っぶねー…」 奇跡的に、董凱の剣は黒鷹の刀を止めていた。 「…ポスト隼だぁ」 一部始終を見ていた鶸は、驚きと感嘆の混じった声で言った。 因みに、この攻撃を受け止められるのは隼だけだったから“ポスト隼”である。 「あ、オハヨーゴザイマス」 ちょっと気まずい黒鷹。 「おはよう今日もいい天気だねぇ…じゃなくて!なんだ今のは!?」 父の怒りは尤もである。 「えーと、その…悪意がある訳じゃないですから…そのぅ…」 言葉に詰まる黒鷹。 「黒ちゃんの毎朝恒例の寝起きの儀式ですよ、お父様」 フォローを入れたのは茘枝。 「儀式」 「寝込みを襲う悪人もタジタジです。ねぇ黒ちゃん?」 「あ、うんうん。こんなクセ付けておくと、何があっても大丈夫って…」 「お父様も黒ちゃんを起こす時はお気をつけ遊ばせ…おほほ」 「あはは…」 取って付けた様な笑いに騙された感も無くは無い董凱。 その時。 「始まったぞ!」 誰かの叫び声が彼らの耳に入ってきた。 それと同時に羅沙が走ってこちらにやってくる。 「天の軍が動いた!もうすぐ地と当たるぞ!」 羅沙は黒鷹達に言って、様子を見るように手招きした。 彼らは羅沙に導かれ、地の国が一望できる高台へと登る。 既に兵達が集まり、様子を窺っていた。 人だかりを割って、国土を見る。 「…あれが…!?」 思わず黒鷹は呟いた。 「すげぇ…」 鶸も息を呑む。 広い草原を、巨大な黒い塊となって進む天の軍。 その速さも並みではない。 大勢が地面を踏む音が、こちらまで響いている。 「あれと…戦うのか…」 唖然として黒鷹が言う。 「あんなモンじゃない」 董凱が言った。 「まさか今、全軍を出してはいないはずだ。天の兵力はまだ増える」 「あれでまだ居るのかよ…」 「皆は…隼や縷紅は…大丈夫かな…」 不安そうに呟いた黒鷹の背中を、ぽんと鶸は叩く。 「だーいじょおぶだって。アイツら強いし。しかも根の軍が味方だぜ?」 「朋蔓と旦毘も居る事だし。まぁ負けねぇだろ」 からりと笑う鶸や董凱に、黒鷹は頷く。 「さーて、あっちが頑張ってる間に山登りするか、俺らは」 羅沙が言って、宿営地へと踵を返す。 黒鷹達もそれについて戻って行った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |