RAPTORS 5 完全に夜も更け、月が高く昇っている。 「見損ないました?」 数時間、黙々と歩き続けた果ての一言。 「…かもな」 こわい、などではなく。 人じゃない。 そう思い始めている。 「さっきの言葉なんですけど、ちょっと語弊がありました。…味方は味方だったんでしょうけど、私にとって天の軍の人達は、数人を除けば敵も同然だったんですよ」 「…」 「私はあなたが思っている通り…それ以上に、自己中心的な人間です。自分の出世に邪魔な同僚は、憎い相手でしかなかった。だから裏切る事も簡単だった…。しかも今は、好意のあったその数人さえ敵にした」 「それでも平気なんだな、アンタは」 「私をそう育てたのが緇宗という人です」 「さっき言ってた奴か」 「緇宗を天で…黒鷹達に戦わせるのは危険過ぎる。だから地に誘き寄せないと…。勿論、私でも敵うか分かりませんが」 「アンタが相手するつもりなのか?」 「はい。他の人を犠牲にはできませんからね…。でも彼は…“数人”の中の一人」 「それって…」 「実力面以外の所でも戦いたくはない人です。…でも恐らく、何も感じずに戦うんでしょうね。姶良の時のように」 隼はその名前にはっとして縷紅を見返す。 縷紅は笑んでそれに応じた。 「近頃、そんな自分が怖くなった…。今なら、必要とあらば、東軍や地を裏切る事さえ何も感じないかもしれない」 言ってから、『もしもの話ですよ』と笑って付け足した。 そしてまた会話無く歩く。 陣営の灯りが見えてきた。 ふと、隼が口を開く。 「何故、それを俺に話す?」 「…隼くらいしか居ませんよ。こんな事話せるのも、あんな姿見せられるのも」 「…」 「私にはあなたの様に、誰かに全てを捧げる事はできない」 「…はぁ!?誰の事!?」 「あれ?前にそんな事言ってませんでしたっけ?」 「言ってねぇよ!そんなこっ恥ずかしい事っ!!」 「あれー?“黒鷹が死んだら俺も死ぬ”って言いませんでした?」 「…そういう意味で言ったんじゃねぇよ、馬鹿…」 「それ以外にどう解釈しろって言うんですか。ああ、あんまりそんな言動してると変な噂立っちゃうんで気をつけて下さいね」 「いつかお前ゼッテ殺してやる…」 殺気立っている隼を気にした風も無く、縷紅は宿営地に入っていく。 ただ、自身の言動が与えている茘枝への誤解には、気付いていないらしい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |