[携帯モード] [URL送信]

RAPTORS

「さてと」
 黒鷹達を見送って、縷紅はくるりと向きを変える。
「これから忙しくなりますよ」
 同郷の二人に告げて、縷紅は宿営地に向かって歩き出す。
「どこへ?」
 朋蔓が訊く。
「大将の所へ。隼を呼んで貰えますか、旦毘」
「ああ」
「光爛の元へ行くように伝えて下さい」
「私達は行かずとも良いのか?」
「お二方には布陣をしておいて頂きたい。根の軍も後ほど行って頂きます」
「分かった」
「あ〜始まるぞぉ。ウズウズするなぁ」
 宿営用の天幕が並ぶ向こうに、ひときわ規模の大きな天幕がある。
 縷紅はその入り口を潜った。
 そこに大将・光爛が居る。
「結局、見送りに出られませんでしたね」
 入りながら縷紅が言った。
「付き合いは苦手でな」
 ふっと笑って光爛は言った。
「流石隼の母上だ。そんな所は母譲りですね」
「縷紅と言ったか。そなたの母君は?」
 彼は微苦笑して答える。
「私も隼と同じ境遇でした」
「これは不躾な事を訊いた。許してくれ」
「いえ、いいんです。気にしてませんから。…隼が来ましたよ」
 縷紅からややあって天幕に入ってきた隼。
「何事だ?」
 自分を呼んだ張本人に向かってまず内容を訊く。
「天をおびき寄せる為に、挑発などしてみようと思いまして」
「ほう、どの様な?」
 聞き返したのは光爛。
「地にある敵軍の施設に火を放ちます。その為に御子息をお借りしたい」
「良い。好きに使え」
「…俺は物か」
 さりげなく抗議してみるが、大人達は耳を貸さない。
「他に誰を?」
「二人で十分です。火を付けるだけですからね。それと、根の軍も布陣をして頂きたい」
「了解した。気をつけて行って来い」
 縷紅は浅く礼をして、天幕を出た。
「こうしていると天に居た頃を思い出しますねぇ」
 自分に付いて天幕を出てきた隼に、縷紅は朗らかに言った。
「許可取る為だけのお呼び出しかよ。必要無ぇじゃん」
「勝手な行動はできませんからね」
「黒はアンタを軍師にしたんだろ?好きな様にやればいいのに」
「でも、ここでの“大将”は光爛です。私はそれに仕えなければ」
「何であの人が」
「兵の数ですよ。根の軍を動かすのはあの方ですからね。戦場には上下関係が不可欠です」
「…ふーん…」
「尤も、あなた達には不必要なんでしょうけど」
「…どういう意味だ?」
 縷紅は隼に向けて、にこりと笑う。
「一目瞭然ですよ。あなたが黒鷹や鶸を正面から罵倒し、彼らも同じ立場でやり合っている。大人が決めた立場もルールも踏み倒してね」
「…」
「そんな平等さが、今からは必要なんですよ、きっと。上下関係の必要な戦争の時代はこれで終わる筈です…」
「時代が…変わるのか…」
「あなた達が変えるんです」
「アンタもな」
 その短い一言に、縷紅は少し面食らう。
 世界を変えようと、本気で考えていたのは、いつ頃だったか。
 今、その一員として認められた気がした。
「で?」
 一番認めてくれなかった彼が、見返す。
「どこに狼煙を上げるんだ?」



[*前へ][次へ#]

3/11ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!