RAPTORS
3
「さてと」
黒鷹達を見送って、縷紅はくるりと向きを変える。
「これから忙しくなりますよ」
同郷の二人に告げて、縷紅は宿営地に向かって歩き出す。
「どこへ?」
朋蔓が訊く。
「大将の所へ。隼を呼んで貰えますか、旦毘」
「ああ」
「光爛の元へ行くように伝えて下さい」
「私達は行かずとも良いのか?」
「お二方には布陣をしておいて頂きたい。根の軍も後ほど行って頂きます」
「分かった」
「あ〜始まるぞぉ。ウズウズするなぁ」
宿営用の天幕が並ぶ向こうに、ひときわ規模の大きな天幕がある。
縷紅はその入り口を潜った。
そこに大将・光爛が居る。
「結局、見送りに出られませんでしたね」
入りながら縷紅が言った。
「付き合いは苦手でな」
ふっと笑って光爛は言った。
「流石隼の母上だ。そんな所は母譲りですね」
「縷紅と言ったか。そなたの母君は?」
彼は微苦笑して答える。
「私も隼と同じ境遇でした」
「これは不躾な事を訊いた。許してくれ」
「いえ、いいんです。気にしてませんから。…隼が来ましたよ」
縷紅からややあって天幕に入ってきた隼。
「何事だ?」
自分を呼んだ張本人に向かってまず内容を訊く。
「天をおびき寄せる為に、挑発などしてみようと思いまして」
「ほう、どの様な?」
聞き返したのは光爛。
「地にある敵軍の施設に火を放ちます。その為に御子息をお借りしたい」
「良い。好きに使え」
「…俺は物か」
さりげなく抗議してみるが、大人達は耳を貸さない。
「他に誰を?」
「二人で十分です。火を付けるだけですからね。それと、根の軍も布陣をして頂きたい」
「了解した。気をつけて行って来い」
縷紅は浅く礼をして、天幕を出た。
「こうしていると天に居た頃を思い出しますねぇ」
自分に付いて天幕を出てきた隼に、縷紅は朗らかに言った。
「許可取る為だけのお呼び出しかよ。必要無ぇじゃん」
「勝手な行動はできませんからね」
「黒はアンタを軍師にしたんだろ?好きな様にやればいいのに」
「でも、ここでの“大将”は光爛です。私はそれに仕えなければ」
「何であの人が」
「兵の数ですよ。根の軍を動かすのはあの方ですからね。戦場には上下関係が不可欠です」
「…ふーん…」
「尤も、あなた達には不必要なんでしょうけど」
「…どういう意味だ?」
縷紅は隼に向けて、にこりと笑う。
「一目瞭然ですよ。あなたが黒鷹や鶸を正面から罵倒し、彼らも同じ立場でやり合っている。大人が決めた立場もルールも踏み倒してね」
「…」
「そんな平等さが、今からは必要なんですよ、きっと。上下関係の必要な戦争の時代はこれで終わる筈です…」
「時代が…変わるのか…」
「あなた達が変えるんです」
「アンタもな」
その短い一言に、縷紅は少し面食らう。
世界を変えようと、本気で考えていたのは、いつ頃だったか。
今、その一員として認められた気がした。
「で?」
一番認めてくれなかった彼が、見返す。
「どこに狼煙を上げるんだ?」
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