RAPTORS
2
戻ると、進軍の準備がすっかり出来上がっている。
整列している兵は、地の民と東軍の一部。
「やっと帰って来やがった」
隼が迎え入れ、黒鷹の頭をこずく…と言うより叩いた。
「いってぇー!!何すんだよ!?」
「しつけ」
「あー、そりゃ必要だ」
茶化した鶸を、今度は黒鷹が殴る。
「何で俺がとばっちり受けなきゃならねぇんだよ!」
「余計な事言うからだ!」
「だってホントの事だろ、なぁ隼?」
「お前にも必要だけどな」
あっさりと言ってのければ更に激化。
「なぁっ!?俺は行い悪かねぇぞ!?」
「善くもねぇだろ!!って言うか隼、“にも”って何だ!!」
ぎゃあぎゃあやっていると、縷紅と東軍幹部の面々がやって来た。
「相変わらず、ですね」
縷紅が苦笑しながら言う。
「ま、子供はこの位が調度いいわ。元気なこって」
「お前も同レベルだけどな、旦毘」
「師匠それはキッツイっすよ…」
「まぁ、今から彼らのお守りは全てあなたの仕事ですから」
縷紅がにこやかに自らの師に告げる。
「そーだそーだ。自分の子供の面倒はちゃんと見なくちゃな、親として」
「…ま、まぁ、ガキの相手くらい朝メシ前ってな…ははは」
「何か今、間がありましたよ?」
乾いた笑いの後、縷紅が痛い指摘をする。
「…まぁ、旦毘がいないだけマシだな」
「うわ、ひでぇ」
「じゃれ合いはこれぐらいにして…」
何か言いたそうな二人は無視し、
「黒鷹、そろそろ出発しなければ。皆さんずっと待ってますからね」
「…あ、そか」
兵は彼らの横に整列し、待たされている。
迷惑この上ない。
「じゃあ行ってきまーす。隼、縷紅、留守番頼むな」
「…留守番って何だよ。こっちのが大変だっつーの」
「そんな事ないですよ隼、黒鷹達には隠密行動を頼まなければならないんですから」
「おんみつ…?」
「あんみつ?」
「いーから早く行けっ!」
けらけら笑いながら先頭へと走る黒鷹と鶸。
それを見ながら頭を抱える隼。
隣に羅沙がやって来た。
「あんなガキ共しょって、静かに動けって方が無理だな…」
もっともな事を言う。
「ついでに子供とおんなじ様な親父も付いてるから、まぁしっかり面倒見てくれ」
縷紅と共に去って行った董凱に聞こえない様に“保育士”に告げる。
「先が思いやられる」
「心中察するよ」
がっくりと落ちた肩をぽんと叩いて隼は同情した。
先頭に居る二人の声が響く。
「さぁて、早いとこ行こうぜ。いいカンジに曇ってきたし」
待ち切れない様子の鶸。
「遊びに行くんじゃねぇんだから」
「同じ様なモンだろ?」
「お前だけ!」
曇天を狙ったのは、天から動きを見えなくする為。
「出発進こーう!!」
「だから遊びじゃねぇし、お前が指揮するな!!」
黒鷹と鶸のやり取りで、いつの間にか軍は進み始める。
「大丈夫かあんなので…」
天気と同じ暗澹たる思いで自らも歩き始める羅沙。
「大丈夫、とは言えねぇな」
他人事になった厄介事に晴れ晴れとする隼。
「失敗したら…バレたらどうするんだ?」
「安心しろ、東軍がなんとかしてくれる」
「無責任だなぁ、お前も王サマも…」
「そりゃどーも」
数十メートル離れた所から、黒鷹が手を振っている。
「じゃあなぁ隼〜!約束守れよ〜!!」
「約束?」
「ちゃんと待っとけ、とさ。エラそーに」
手を振り返してやると、満足した様に列に帰って行った。
「本当はちゃんと解ってんだな」
「何を?」
「戦の厳しさ…とか?」
「それ解ってなかったら出来ねぇだろ、こんな事」
「…そうだな。じゃ」
「おう」
軽く手を振り、隼はそこに止まって進軍を見送った。
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