RAPTORS 3 夕暮れ時。 収容所への道を五人で辿る。 例の如く、はしゃぎながら先々行ってしまう鶸と黒鷹。 だが昨日の今日で、立ち止まって後方集団を待つ事を覚えたらしい。 縷紅はそんな二人に付き合う形で歩いている。いわば保護者だ。 「ほんっとにアレが王族でいいのかぁ?」 何を今更的な事をごちて、隼は前方を仰ぎ見た。 「あのお方達が王族だから良かったんだよ、隼」 宥める様に司祭が言う。 「…アンタはそう言わなきゃいけないんだろうけど」 「本心だよ?」 「側近になってみろよ」 苦い顔で言って、遠くなった影を探す。 「まんざらでもないのだろう?」 「言ってろ」 完全な照れ隠しだ。 「…隼」 微笑を浮かべたまま、呼び掛ける。 「何だよ、今更」 優しい声に、多少警戒しながら振り向く。 「根に行ったんだってな」 「……」 面食らったように暫く黙り、 「あのヤロウ…」 “ヤロウ”とは勿論、黒鷹の事である。 「根に帰る気は無いのか?」 「は?」 怒りを含む驚きの目で、司祭を見返す。 「…本物の家族と暮らす方がいいだろう」 “ふざけるな”と言いかけて、しかし言えなかった。 脳裏に、姉――鈴寧の顔が過ぎった。 彼女が“家族”なら、悪くないかも知れない…。 「今更、根に帰ってられねぇんだけど、俺」 忘れるんだったと、思い直してこう応えた。 鈴寧も、光爛も――崔爛も。忘れてしまおう、と。 「根の空気が悪くなってんだよ。俺なんかもう二度と入れねぇ」 「ほう、根の空気が…」 「悪しき文明が生まれている。地には勝ち目が無い」 「それは光爛という人が作った?」 「ああ」 「彼女を恨む?」 「ああ」 「彼女の存在を消したい?」 「…ああ」 頷き、 「物騒な事訊くなぁ?司祭サマよ?」 「それはお前の方だ」 司祭の顔から、微笑が掻き消えている。 「本気でそう思っているのか?」 「ああ。そうだけど?」 緑の瞳に躊躇いは無い。 それが、却って恐ろしい。 「母親だって聞いたんだな、アイツから」 「実の母親を殺したいと言うのか?」 「関係無ぇよ。俺は、地を害する奴は斬る。それだけだ」 「肉親より王子を取るのか…」 「王子の側近、それが俺の居場所だからな」 さらりと言う隼を、複雑な表情で見る司祭。 「お前が地の為を思ってくれる事は嬉しい。だが――」 少し躊躇い、 「王子も言っておられた。そんな傷を負わされながら、よく地に仕える気になったな、と。…無理に仕え続ける事は無い。好きな様に生きなさい」 だから今朝、傷の事を訊いてきたのかと、隼はそこに納得した。 ――どいつもこいつも、要らん世話を焼いてくれる。 「おやっさん、俺は充分、好きに生きているつもりなんだけど?」 「本当に?」 「嫌ならとっくに辞めてる。…地の人間が皆こんな事する奴だと思う程、バカじゃない」 言いながら、傷を指す。 「…俺の家族は、この国に居るんだよ」 司祭に向かって笑んだ。 三日月型の傷を模した刺青は、地と根の違いと憎しみを受け入れた上で、地で生きていく為に。 “地の民”の、証だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |