RAPTORS
4
闇の向こうに、高い金網が見える。
その中の人々に、自由を返す為、ここに来た。
「やっと…ここに来れた」
ぽつりと黒鷹が言った。
革命軍の指揮を採る事を決意した場所。
再びここに立った今、いよいよ彼は名実共に“リーダー”とならなければならない。
今から、その手腕を試される。
「司祭はこの辺で待ってて。――行こう」
四人は歩み出した。
一国の明暗を分ける戦いへ。
「これからが本番だ」
「ゾクゾクするな」
左右にそれぞれ塔がある。
金網に突き当たる前に、二人ずつに分かれた。
「ヘマんじゃねぇぞ」
「そっちこそ」
言い合って、お互い闇の中へ溶けた。
「しっかし、お前、要らん告げ口をしてくれたもんだな」
二人きりになって、隼は相棒に言った。
「要らん?告げ口?」
何の事だっけ、と本気で考える。
そして、「あ」と低く漏らした。
「司祭に余計な心配させるんじゃねぇよ。もうトシなんだから」
「お前が言わないから言ったんだろぉ!?」
「言わないで良かった事だ」
きつく言われて、黒鷹は「ちぇ」と小さく言った。
監視塔に着いた。
縷紅が言っていた通り、三階への階段は外にある。
「俺が上、隼が見張り」
決め付けられ、
「何でそうなるんだよ?」
ムッとして訊くと。
「傷、痛いんじゃなかったっけ」
昨日受けた利き腕の傷。
痛みは我慢出来ても、動きは鈍る。
「…行って来い」
渋々、隼は言った。
「へへっ」と笑って、階段を駆け上がりだした黒鷹。
三階の扉を開け、嬉々として闘いだした。
そんな上階を見上げつつ、彼は一階の扉に背を預けた。
黒鷹は実に静かに戦ってくれている。しばらく自分の出番は無いと踏んだ。
「…満月、か」
なかなか戦い易そうな得物だな、と呑気に考え、何気なく夜空を見た。
三日月だった。
傷と、同じ。
――それまでなら特に気にしないのだが。
赤い、三日月。
血の滲む傷の如く。
ぞわりと。
得体の知れない不安が波を立てる。
『――アイラ』
耳の奥で響く声。
あの時のままに。
「…司祭」
背が、扉から浮いた。
根拠は無い。
だが、予感がする。
あの日のように。
「黒鷹」
上に向かって、極力気付かれない様に呼んだ。
「なぁにぃ?」
緊張感に欠けた返事が返ってきても、それをとやかく言う間すら無い。
「一人で大丈夫だな?」
訊いてはいるが、確定形。
黒鷹もそれを裏切らない。
「よゆ〜。どしたー?」
返された問いに応える事は無かった。
黒鷹の返答を聞いたかどうか、隼は走りだしていた。
――彼女は殺された。
天の人間に殺された。
理由も無く殺された。
…地の人々を、もう、誰も、殺すな。
殺す前に、俺が殺す。
「――思い過ごしで終わってくれ…」
呟いて、走りながら刀を抜いた。
闇の向こうで、光が反射して、隼に届いた。
前方に、誰かを追っている者が居た。
「待てっ――!」
司祭の声。
それだけで、充分だった。
カン、と金属のぶつかる音。
続いて、嫌な音が隼の耳に届いた。
寒気が背に走った。
「おやっさん!!」
もう一度、身を斬る音。これは隼の前を走っていた人物が、敵を斬った音だ。
「後ろ!」
言われるがまま、後ろに踊り出た敵を、隼は斬った。
どさりと、倒れる。
辺りが再び静まり返った。
隼の足元に、彼の“父”の血が流れていた――。
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