RAPTORS
4
島から鶸達の待つ基地に戻るのに、海路で二日かかった。
だが帰ってみると、人の気配が無い。
「鶸ー?」
暗い洞窟に向かって、茘枝が呼ぶ。
「おられませんな」
後方で阿鹿が言った。
「そんな…誰も居ない筈は…」
少なくとも鶸の盗賊仲間だった子供達は居る筈だ。
どこかに潜んでいるのかと、茘枝は一歩踏み出した。
その時、背後に人の気配がした。
無意識に短刀に手が行ったのは、血の臭気を感じたからだ。
「誰だ!?」
阿鹿の怒鳴りと同時に、茘枝はその人物を見た。
己の髪の毛以上に鮮やかな赤――血を身に纏った、縷紅。
「――敵じゃないわ、阿鹿」
「しかし、茘枝殿…!?」
流石に茘枝も戸惑っていた。
「何があったの…?」
縷紅は、走って来たのだろう、荒い息を整えている。
服や肌に傷が無数にあった。
「早く――」
一度言葉を切り、息を吸う。
「鶸達が危ない」
言いながら一方を指差した。
茘枝は無言で頷き、その方向へ走り出した。
縷紅もその後を追おうとした。
「待て」
それを止めたのは、阿鹿だ。
「何故天の人間が居る?」
「説明している暇は無い」
言って除けて、再び背を向ける。
「鶸様を危ない目に合わせているのは、お前ではないのか!?」
風が、血に固まった髪を散らした。
「過言では、ありません――」
「――」
「私は地がどうなろうと構わない――ただ、ここに居るべきでは無かった」
静かに言って、駆け出した。
そこは戦地のようだった。
鶸の仲間と、天の人間が戦っている。
茘枝は近くに倒れていた少年の手をとった。
既に脈が無い。
「小さな子供は全員逃がした。囮になる為にここまで来たが――持つのは時間の問題だな」
茘枝に気付いた男が寄って来てそう教える。
「鶸は!?」
「その辺で戦っている筈だ」
剣が振り下ろされた。
男がそれを止め、茘枝が相手を斬る。
そのまま闘いに身を投じた。
――天に気付かれたか
組織が大きくならないうちに潰す。そのつもりなのだろう。
黒鷹を戻さなくて良かったと、茘枝は思った。
ちらっと鶸の姿を確認した。
何の心配も無い、いつも通り善戦している。
ただ、その表情は、悲しみだっただろうか――
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