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RAPTORS


 朋蔓、旦毘、縷紅、緑葉、そして隼の五人のみとなった軍議の場。
「スッキリしましたね」
 にこやかに毒を吐く縷紅。
「…良かったのか?」
 手荒な手段に狼狽する緑葉。
「やれやれ」
 一言だけ溢した隼。
「軍内での私憤は慎むように…と言いたい所だが、君は東軍ではないから咎めようが無いな。寧ろ部下の非礼を詫びねばなるまい」
「別に…」
 朋蔓の謝罪を居心地悪そうにかわす。
 旦毘がそれを見て盛り立てた。
「しっかし、見たかあの顔?どいつもこいつも青ざめちゃって。胸の痞が取れたぜ、ありがとな隼。……それはそうと」
 表情を百八十度転換させて、深刻な顔。
「今言った事は本気か?」
「…どの今だよ?」
「だから、お前が砲撃を止めようって話は…」
「本気だ。当然だろう」
「だが…それは俺が…」
 おずおずと旦毘が言えば、意思の込められた目に制される。
「アンタは今からもこの軍に必要な存在だ。アンタには、行かせない」
「だが…!!」
「志願する人間を差し置いて、行きたくない奴が行く事も無いだろう?」
「でも、隼…!!」
 旦毘は首を振り、隼の肩を掴んで言い聞かせる。
「お前はそんな事が出来る身か!?自分の状況分かってんのかよ!?」
 冷たく、肩を掴む手を払う。
「余計な世話だ。分かってるからこそ行くんだよ」
「何…!?」
「これでもちゃんと動ける。さっき試したから大丈夫だ。心配しなくていい。必ず成功させる」
 返す言葉を失った旦毘は、横へ問い詰める。
「縷紅…お前、行かせる気なのか…!?」
 頷く。
「何故だ!?死地に送り込む様なもんだろう!!」
「私だって、止められるものなら止めています、旦毘。行かせたくないのは山々ですが…」
「ならどうしてこの場に連れて来た!?」
「それは…」
「煩ぇなごちゃごちゃと!!俺は刀握って死にてぇんだよ!!それだけだ!!」
 隼の叫びに、二人は言い合いを止めた。
 四人分の視線を避ける様に向けられた背。
 本心を素直に言い表せない、背中。
「自分の死場所くらい選ばせてくれ…。役割は果たす。どんな手を使ってでも。…だから、何も言わずに…行かせて欲しい…」
「死ぬ…つもりなのか?」
 旦毘が言葉を絞り出す。
「そんな任務だろう?死ぬ気で行かないと、成功は有り得ない」
「……」
 縷紅はそっと、旦毘に告げる。
「生きて帰ると、隼は言ってくれました。私はそれを信じただけです」
 旦毘は縷紅を見返す。
 そこには確信に満ちた微笑がある。
「きっと、大丈夫です。信じましょう?隼を」
「……」
 複雑な表情で、もう一度隼を見やる。
 今度は真っ直ぐに見つめてくる緑の瞳がある。
 揺るがない。
「…済まない」
 旦毘の一言に、途端に隼は肩を落とした。
「謝るな!!さい先が悪い!!」
 怒られた旦毘は、困って縷紅に助けを求めている。
 助けを求められた方は、可笑しそうに笑っている。
「いいよな、朋蔓?…いや今は軍師殿か」
 隼が視線と言葉を投げれば、彼は頷く。
「軍師が許すと言うのなら、私に異存は無い」
「…朋蔓?」
 訝しげに縷紅が聞き返す。
 すると、彼は言った。
「責任はいくらでも取るのだろう?ならば返上だ。…ただし、正式には肩の傷が癒えてからだ」
 呆気に取られて縷紅は瞬きを繰り返している。
「また戦場に戻るのだろう?お前は」
「――ええ。勿論です。軍師の座、お請けします」
 迷いは無い。
 もう、自分だけ逃げる訳にはいかないから。
 縷紅の紅い髪をくしゃりと掻き回して、旦毘が朋蔓に言った。
「だぁから言っただろ?コイツは強いって!」
 縷紅は旦毘に微笑を向け、そして隼に向き直る。
「…しかし、いくら何でも一人で行くのは無謀という物でしょう。誰か付けましょうか?」
「いや?アンタが手を焼いてくれる必要は無い」
「しかし…」
「緑葉」
 突然呼ばれて、心臓が飛び上がった。
「…え?」
「お前を連れて行く。後は必要無い」
「…俺!?」
「何だ?嫌か?なら別にいいけど」
「い…いや、行く!俺で良いのなら、でも…」
 驚きの余り、声が上擦る。
「俺でいいのか!?正式にこの軍の人間でもないし、それどころか…」
 本当は捕虜なのに。
「お前も煩せぇなぁ。俺が来いっつってんだよ。お前の立場なんざ関係無い」
 そう言われては、二の句も無い。
 縷紅は笑う。
「珍しいですよ?隼からのラブコールなんて」
「はぁ!?」
「縷紅様!?」
 怒気を隠しもしない隼と、狼狽える緑葉。
 縷紅は笑いながら「まぁまぁ」と二人をなだめる。
「…何か考えあっての事ですね?隼」
「まぁな」
「考え…?」
 問い掛けるが、一瞥されただけ。
 当の緑葉にも教えて貰えない。
「ところで、止めるとは言え具体的にどうするつもりだ?」
 朋蔓が問う。
「コイツがある」
 隼は袖を手繰って、銀の腕輪を見せた。
 “霧雨”――れっきとした武器だ。王家の宝を黒鷹から譲り受けた。
 装飾に見せ掛けて、実は繊細な鋼の糸の集合体。
「王家伝来なだけに、切れ味は格別だ。鉄ですら斬ると聞いた。これで直接、破壊できる筈だ」
「ではそれを信じよう。決行はいつに?」
「あちらの陣を空けて貰いましょう。決行はその時が良い」
「空くのか?」
「我々は後退し、力を温存させましょう。必ずあちらは焦れて攻めてくる筈。そうすれば大砲は確実に射程圏外、使われずに済みます。そして一息に潰そうとするから総力を集めてくる筈。そうなればあちらの陣はがら空き」
「…成程な。だが防衛戦を成功させなければ全てが水の泡だ」
「必ず成功させます。貴方と同じく」
 心強く縷紅は笑いかける。
 それに隼は頷いた。




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あきゅろす。
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