RAPTORS 2 朋蔓、旦毘、縷紅、緑葉、そして隼の五人のみとなった軍議の場。 「スッキリしましたね」 にこやかに毒を吐く縷紅。 「…良かったのか?」 手荒な手段に狼狽する緑葉。 「やれやれ」 一言だけ溢した隼。 「軍内での私憤は慎むように…と言いたい所だが、君は東軍ではないから咎めようが無いな。寧ろ部下の非礼を詫びねばなるまい」 「別に…」 朋蔓の謝罪を居心地悪そうにかわす。 旦毘がそれを見て盛り立てた。 「しっかし、見たかあの顔?どいつもこいつも青ざめちゃって。胸の痞が取れたぜ、ありがとな隼。……それはそうと」 表情を百八十度転換させて、深刻な顔。 「今言った事は本気か?」 「…どの今だよ?」 「だから、お前が砲撃を止めようって話は…」 「本気だ。当然だろう」 「だが…それは俺が…」 おずおずと旦毘が言えば、意思の込められた目に制される。 「アンタは今からもこの軍に必要な存在だ。アンタには、行かせない」 「だが…!!」 「志願する人間を差し置いて、行きたくない奴が行く事も無いだろう?」 「でも、隼…!!」 旦毘は首を振り、隼の肩を掴んで言い聞かせる。 「お前はそんな事が出来る身か!?自分の状況分かってんのかよ!?」 冷たく、肩を掴む手を払う。 「余計な世話だ。分かってるからこそ行くんだよ」 「何…!?」 「これでもちゃんと動ける。さっき試したから大丈夫だ。心配しなくていい。必ず成功させる」 返す言葉を失った旦毘は、横へ問い詰める。 「縷紅…お前、行かせる気なのか…!?」 頷く。 「何故だ!?死地に送り込む様なもんだろう!!」 「私だって、止められるものなら止めています、旦毘。行かせたくないのは山々ですが…」 「ならどうしてこの場に連れて来た!?」 「それは…」 「煩ぇなごちゃごちゃと!!俺は刀握って死にてぇんだよ!!それだけだ!!」 隼の叫びに、二人は言い合いを止めた。 四人分の視線を避ける様に向けられた背。 本心を素直に言い表せない、背中。 「自分の死場所くらい選ばせてくれ…。役割は果たす。どんな手を使ってでも。…だから、何も言わずに…行かせて欲しい…」 「死ぬ…つもりなのか?」 旦毘が言葉を絞り出す。 「そんな任務だろう?死ぬ気で行かないと、成功は有り得ない」 「……」 縷紅はそっと、旦毘に告げる。 「生きて帰ると、隼は言ってくれました。私はそれを信じただけです」 旦毘は縷紅を見返す。 そこには確信に満ちた微笑がある。 「きっと、大丈夫です。信じましょう?隼を」 「……」 複雑な表情で、もう一度隼を見やる。 今度は真っ直ぐに見つめてくる緑の瞳がある。 揺るがない。 「…済まない」 旦毘の一言に、途端に隼は肩を落とした。 「謝るな!!さい先が悪い!!」 怒られた旦毘は、困って縷紅に助けを求めている。 助けを求められた方は、可笑しそうに笑っている。 「いいよな、朋蔓?…いや今は軍師殿か」 隼が視線と言葉を投げれば、彼は頷く。 「軍師が許すと言うのなら、私に異存は無い」 「…朋蔓?」 訝しげに縷紅が聞き返す。 すると、彼は言った。 「責任はいくらでも取るのだろう?ならば返上だ。…ただし、正式には肩の傷が癒えてからだ」 呆気に取られて縷紅は瞬きを繰り返している。 「また戦場に戻るのだろう?お前は」 「――ええ。勿論です。軍師の座、お請けします」 迷いは無い。 もう、自分だけ逃げる訳にはいかないから。 縷紅の紅い髪をくしゃりと掻き回して、旦毘が朋蔓に言った。 「だぁから言っただろ?コイツは強いって!」 縷紅は旦毘に微笑を向け、そして隼に向き直る。 「…しかし、いくら何でも一人で行くのは無謀という物でしょう。誰か付けましょうか?」 「いや?アンタが手を焼いてくれる必要は無い」 「しかし…」 「緑葉」 突然呼ばれて、心臓が飛び上がった。 「…え?」 「お前を連れて行く。後は必要無い」 「…俺!?」 「何だ?嫌か?なら別にいいけど」 「い…いや、行く!俺で良いのなら、でも…」 驚きの余り、声が上擦る。 「俺でいいのか!?正式にこの軍の人間でもないし、それどころか…」 本当は捕虜なのに。 「お前も煩せぇなぁ。俺が来いっつってんだよ。お前の立場なんざ関係無い」 そう言われては、二の句も無い。 縷紅は笑う。 「珍しいですよ?隼からのラブコールなんて」 「はぁ!?」 「縷紅様!?」 怒気を隠しもしない隼と、狼狽える緑葉。 縷紅は笑いながら「まぁまぁ」と二人をなだめる。 「…何か考えあっての事ですね?隼」 「まぁな」 「考え…?」 問い掛けるが、一瞥されただけ。 当の緑葉にも教えて貰えない。 「ところで、止めるとは言え具体的にどうするつもりだ?」 朋蔓が問う。 「コイツがある」 隼は袖を手繰って、銀の腕輪を見せた。 “霧雨”――れっきとした武器だ。王家の宝を黒鷹から譲り受けた。 装飾に見せ掛けて、実は繊細な鋼の糸の集合体。 「王家伝来なだけに、切れ味は格別だ。鉄ですら斬ると聞いた。これで直接、破壊できる筈だ」 「ではそれを信じよう。決行はいつに?」 「あちらの陣を空けて貰いましょう。決行はその時が良い」 「空くのか?」 「我々は後退し、力を温存させましょう。必ずあちらは焦れて攻めてくる筈。そうすれば大砲は確実に射程圏外、使われずに済みます。そして一息に潰そうとするから総力を集めてくる筈。そうなればあちらの陣はがら空き」 「…成程な。だが防衛戦を成功させなければ全てが水の泡だ」 「必ず成功させます。貴方と同じく」 心強く縷紅は笑いかける。 それに隼は頷いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |