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RAPTORS

 ただならぬざわめきと規則的な重低音。
 ――来たか。
 目を閉じたまま、隼はそれを悟った。
 天幕の中の寝台の上。
 真夜中どころか、明け方にようやく眠りに就いて、まだ数時間と経ってないだろう。
 目を開け、周囲を見る。
 布越しに穏やかな日の光が降り注ぐ。
 土の上に寝台が三台。食料と水、そして隼の武器がいくつか置いてある。
 隣で寝た縷紅の寝台は既に空だ。
 見かけによらず体力ある奴、そう思いながら起き上がる。
 誰かが小走りで近付いてくる音がする。
 十中八九、自分に用がある奴だ。
 予想に違わず、天幕の布の出口が開いた。
 栄魅だ。
「敵軍が来た」
「分かってる」
 隼は彼女に応え、寝台から下りた。
「やっぱり天の軍って凄いわ。あんなに大勢来るなんて」
「いや、五年前の戦の方が多い。まだ奴らも本気じゃないし」
「見てもないのに」
「音で分かる」
 言いながら隼は身支度を整え、武器を装備していく。
「闘うの?」
 そんな彼の姿を見て栄魅は訊いた。
「何の為に俺を呼びに来たんだ?」
 “自分が戦わないでどうする”といった表情で隼は聞き返す。
「この間は死に掛けてたのに」
「一ヵ月も前の事だ。もう治った」
「嘘?あれだけで簡単に治るモノなの?」
「何だよ、何が言いたい?俺が戦場に出るとマズイのか?」
 栄魅は言葉に詰まる。
 またあの様な――目の前で成す術も無く連れ去られ、殺されかけたあの時の様な事になるのではないかと。
 彼女は恐れている。
「…俺が弱いから足手まといになるとでも?」
 隼は言った。
 半分は本音だった。
「そんな事は…。ただ、あなたが戦わなくても戦力は十分ある。そこまで無理に戦場に出なくても――」
「戦わなきゃいけない」
 栄魅の言葉を遮り、隼はきっぱり言った。
「それは…黒鷹の為?」
「いいや…アンタにも関係のある事だから言っておくけど」
 そう前置いて、少し躊躇い、口を開く。
「アンタの言う通り、完全には治ってはいない」
「なら、どうして…」
「今は自覚症状が無いだけだ。医者から聞いた…空気の汚れによる病は、治る事は無いのだと」
「でも、私は治った」
「症状が無いだけだ。これ以上空気の悪い所に行けば再発する。根の人間達も、今は薬で凌いでいる状況らしい…。もし、この戦いで天が勝てば、俺達はこの世界のどこにも居場所を失くす」
「――」
 これ以上世界が軍国主義に傾けば、空気の汚れに拍車がかかる。
 そうなると、生き延びる事はあっても症状は悪化し、間接的に天に殺される事になる。
「勝てる保証なんか無い。五年前のように後悔する前に、やれる事はやっておきたい」
 文字通り“命懸けの戦い”。
 負ければ未来は無い。
「俺にとってこの戦は、国の為でも黒鷹の為でも、アンタ達同郷の人間たちの為でもない。俺が生きていたい、その為だけだ」
「…そうね」
 栄魅は隼の言葉に頷き、少し考えて言った。
「私に剣を貸して」
「…え?」
「無いの?他に武器は?」
「あるけど…アンタも戦う気か?」
「止めるの?光爛や縷紅達に散々止められたから、他に武器の調達方法が無いのよね」
「だからって…」
 隼は呆れつつ、自分の予備の刀を栄魅に渡した。
「俺は責任持たねぇからな」
「いいよ。死んでまで文句は言わない」
「…ったく」
 二人揃って天幕から出、今にも始まりそうな戦場へと向かう。
 軍の進む足音が、今は止まっている。
「自分の為の戦いだものね」
 走りながら、栄魅は誰にとも無く呟いた。



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あきゅろす。
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