少女は決死の覚悟で、その鉄の扉の前に立っていた。
何度も深呼吸をして緊張を鎮めようとするが高まるばかりで効果はない、気休めに近かった。それでも引く気はなく、恐る恐るであるが爆弾のスイッチかのように震える指でチャイムを押した。

ピンポーン・・・

音と同時に数メートル離れる。震えながら構えていたが、しばらくしても何も起こらない。

「・・・?」

不思議に思ってまた近付いてチャイムを押し直した。

ピンポーン・・・

やはり何の反応もない。

(いない、のかな・・・? 寝てるとか・・・)

精一杯の勇気を振り絞って来たのに、出鼻を挫かれてほっとしたような残念なような・・・
またこの覚悟ができるかと問われれば自信はない。二度もこんな思いをするのは色々憔悴してしまう。
仕方なく足の方向を変え、嘆息する。

「帰ろ・・・」

ガチャ。

ビクゥ!!

予期しないタイミングに、遅れてドアが開けられた。

「・・・Umm?」

中から出てきた男は眼前に何も無いことに首を捻り、ゆっくり視線を落とした。

「・・・・・・lovelyrabbitじゃねぇか。What're you doing here? んなトコに踞って」

少女は準備が出来ていなかったトコロを突かれてそれはもう心臓が飛び出すほど驚き、思わずしゃがみ込んでプルプル震えていた。

「ぅ、あ、ここここんにちわ・・・っ」

「? Goodafternoon」

恐縮しきって挨拶する少女に怪訝そうに男は返す。

「どうした。日向ならバイトだぞ」

「い・・・いや、あの、その、お兄ちゃんに用があるんじゃなくて・・・その;;」

「Ah? じゃ、何だってんだ?」

元々目付きの良くない男は少女からすると剣呑に睨まれているように見え、少女は心臓が小さくなる思いがする。

「え・・・っと、あのぅ、お折り入ってお願いがあって・・・」

「俺に・・・??」

意外なコトに男は目を丸くする。

「ははははい! じっ実は、一人でお菓子を作ったので、たた食べてみてくれませんかぁぅぅ〜・・・

「・・・いいけどよ。でも、何頼むだけでそんな泣きそうになってんだ?」

思い切り尻すぼみの声を聞き取って、男は今にも泣き出しそうな少女を不思議に思った。
全く何もしていないが少女には心臓が潰れそうなほど恐いのだった。
数分後、少女は見慣れた兄の部屋のソファーに座っていた。キッチンでは男がお茶を淹れている。その後ろ姿が少女には信じられない光景だった。
普段は男ではなく兄が台所に立つばかりだ。第一そんなコトをするような人にはとても見えない。何だか畏れ多いような気がしてきた。
何より意外だったのは、あっさり頼みを聞き入れられたコトだ。少女はザックリと断られるの覚悟であったのに。

「Hey.コレでいいか」

「はっはい!」

横柄な態度で出されたのはコーヒーでミルクと砂糖が入っていた。ブラックが飲めない少女にはちょうど良い甘さだった。
しかも、

(美味しい・・・)

「あ、あのぅ、そちらもミルク入って・・・?」

「いや、俺はblackだ」

「そう、ですか・・・」

こんな気遣いをするような人だとは、と少女は内心驚いた。しかし、ブラック派ということは甘い物を好まないのかもしれない。

(どどどうしよう・・・っ、とんでもないコト頼んじゃったんじゃ・・・!?;)

「で、何作ったんだ」

青褪めているところに、ホラ寄越せ、と手を差し出されて少女は飛び上がる。

「っひゃう! かかカップケーキなんですけど、だ大丈夫ですか・・・!?」

「大丈夫・・・って、物体Xでも作ったのか・・・?;」

「いいいえ、普通です・・・・・・・・・見た目は

間があった。

「・・・とにかく渡せ」

・・・・・・ハイ・・・

命令されて大人しく従った。それだけで泣きたくなった。
一見して普通のカップケーキを受け取って男は一度目で検分する。
少女の心境は判決を直前にする被告人に近かった。しかし、逃げる訳にはいかない。この為にわざわざ主夫のような居候が買い物に出かけ、かつ兄のいない時を見計らってやって来たのだ、本で美食家と記述のあったこの人物に挑むために。
一緒に練習してくれた忍や失敗してもいつも美味しいと言って食べてくれる兄のために少しでも上達したい。


だから・・・


カップケーキの一角が削られた。
その様子を少女は固唾を飲んで見守る。ビクビクしながら両手を組んで祈るようなポーズを取る。
喉が隆起し終わるのを待って勇気を振り絞って訊いた。

「・・・・・・あの、お味はいかがですか・・・?;」

返答以前に相手の存在そのものに怯えていた。
男は指についた食べカスを舐めとりながら事も無げに評価を下した。

「日向が作った方が美味いな」

「そ・・・そうですか・・・」

一刀両断されて重石を落とされたように落ち込んだ。
少女の様子に構わず、男はもう一口かぶってから呟いた。

「俺は不味いもんは食わねぇけどな」

「え・・・」

言葉が率直だからキツくもあるが、偽りの無い長所もある。
だからこそ、頼んだのだ。

少女は顔を輝かせた。

「あ・・・ありがとうございます・・・っ///」

「誉めてねぇぞ」

「はい!」

頑張ります、と自分を奮い立たせる少女に男は隻眼をそっと細めた。
















珍しい組み合わせが書きたくて・・・

明日羽ちゃんは政宗が恐いんです。でも、同じ日向好き同士何か通じるモノがあるんだと思います。
明日羽ちゃんは「お兄ちゃんと仲良いヒトだからきっと怖くない」と
政宗は政宗で「日向の妹だから」と邪険どころか大事に可愛がっています。





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