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天使の羽跡
18
「少し抜けないかい?」

 雪との思い出を、あまり他人には教えたくない。特に白石には。

「あ…はい。」
「おいおい!早過ぎだろ!遅れてきたくせにずりいぞ!!」

 僕に突っ掛かる白石に、不自然な程の笑顔を向けた。

「今日は誘ってくれてありがとう。おかげでこんなに素晴らしい出会いができた。」

 月曜日、会社で白石に問いただされるだろうな。そんなことを考えながら、彼女と共に店を出た。

 周りは同じような店が多く、適当に目に入った、少しカジュアルな店に入った。

「えっと…ハルさん?」
「あ、はい。清水遥(シミズ ハルカ)です。」
「僕は大川聡です。よろしく。」

 いきなり雪の話をするのもどうかと思い、自分の話をしあった。
 遥は僕の一歳下で、近くの保育園に勤めているらしい。
 和んできたところで、先に話を出したのは向こうだった。

「ところで聡さん、あの場所を知っているんですか?」
「うん。」

 そう答えると、遥は見るからに明るい表情になった。

「姉が他人にあの場所を教えたのは、きっと聡さんだけですよ。」
「え…。」

 喜ぶべきなのだろうけど、何故そう言い切れるのかがわからない。

「お姉ちゃん言ってました。自分にとって特別な場所は、特別な人としか来ないって。…姉が亡くなる何日か前に聞いた時、知っているのは私だけだと言ってたので。」

 特別な人。その言葉が、頭の中でこだまする。
 遥はニコリと笑った。その笑みが雪と重なり、あの夏の日を鮮明に思い起こさせる。

「聡さんは、お墓の方にも来てくださったんですか?」
「いや…。」

 否定するのは失礼だったかもしれないが、行けずにいたのが事実なのだから仕方ない。

「私も今年はまだなんです。ミキとの約束に間に合わなそうだったので。」

 結局遅刻でしたけど、と遥は悪戯っぽく舌を出した。

「よかったら、明日一緒に行きませんか?」

 遥の汚れを知らない瞳が、記憶の中の雪とだぶる。
 今年どころか一回も墓参りに行ったことがないと告白しなくてはと思ったが、その瞳を前に断る術を僕は持ち合わせていなかった。

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あきゅろす。
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