天使の羽跡 17 雪のお墓にも、事故現場にも行っていない。 一度は行こうと、場所を調べた。しかし、そこでは無機質な現実が僕を待ち受けているのだ。 「…また来るよ。」 結局僕が雪に会えるのは、この思い出の場所だけ。 なんて僕は弱いのだろう。 独り嘲笑して俯くと、足元に一輪の花が落ちていた。僕が買ってきたものではないが、人間の手によって切られているようだ。 可憐なその花は、雪を連想させるには十分で、僕はそれを自分が供えたものの隣に横たわらせた。 白石との約束通り店に着くと、賑やかな声や控えめの音楽に包まれる。 奥の方に白石の姿を見付けて近づくと、女の子が一人立っていて、どうやら僕の他にも遅れた人がいたようだった。 「おっそーい!何してたのよ、もう。今日のメインディッシュでしょうが!」 「メ、メイン…!?じゃなくて!今日は姉の命日だから行けないって言ったのに、ミキが無理矢理誘ったんでしょ!」 「あーもう。何でここでそんな暗い話題を出しちゃうのよ!だからハルはいつまで経っても男ができないのよ!」 まあまあと宥める白石が、僕に気付いて片手を挙げた。 「大川!やっと来たか。」 その時、遅れてきた彼女は僕に気付いたようで、こちらに振り向いた。 自分の目が、これでもかというほど開いているのがわかる。それほどの衝撃だった。 「雪!??」 やっと出た声。 長めの黒髪も、白い肌も、雪のそれとそっくり。勿論、制服は着ていなくて、あの頃より少し大人になったように見える。 彼女は驚いた顔で僕を見ていた。 「雪は…亡くなった姉ですが…。」 「雪の、妹…?」 「姉を知っているんですか?」 「あ…いや…」 そういえば妹がいると言っていた。仲が良いと。 「つーか大川、靴泥だらけじゃねえか。どこ行ってたんだよ。」 「え…?ああ、いや別に。」 あの思い出の場所に行ったからだ。昨晩降った雨が残っていたのだろう。 「ハルも、ミュール汚れてるよ。」 「二人共どんな道通ってきたんだよ〜。」 彼女もあの場所に行ったのだろうか。 あそこに落ちていた花は、彼女が? 「あの…もしかして、そこの高校の裏にある山へ行かれたんですか?」 やはり、彼女も。 [*前へ][次へ#] [戻る] |