impatient 3 「紗奈…?」 「……やっぱり陽高様具合悪いんですから、ちゃんと休んでください。私、仕事に戻りますね。」 ベッドから下り、背中のファスナーを上げながら言えば、陽高様はますます怪訝そうな視線を私に突き刺す。 「どうした?」 「陽高様に早くお風邪を治して欲しいだけです。」 「…俺を信じ込ませたいなら、もっと説得力のある表情を研究しろ。」 放っておいてくれればいいのに。でないと陽高様に当たってしまう。 自分でもわかるほど不機嫌な顔をしている私に、陽高様は優しく手を伸ばした。 「おいで、紗奈。」 素直に従う自分が、少しだけ嫌だ。 たまには反抗してみたいのに、やっぱり私にとって陽高様の言葉は絶対で、その腕にずっと包まれていたいとも思ってしまうのだから重症だ。 私は、なるべく渋々といった雰囲気を醸し出しながら、その胸に寄り添った。 「何を拗ねている?理由がわからないのでは謝ることもできない。」 陽高様に優しく頭を撫でられると、徐々に、頑なだった私の心が溶けていく。 私は、ふとした瞬間にのしかかる負の感情を、正直に陽高様に曝すことにした。 この病は、きっと陽高様にしか治せないから。 「陽高様って、その……女性経験豊富ですよね。」 「…まあ、乏しくはないな。」 「…私、あんまり男の人を知らないので…最初の頃は、陽高様にちゃんと満足していただけてるのか不安で…。……今でもたまに、過去に関係のあった方のことが気になって、比べられているような気がしてしまって。」 私は何を言っているのだろう。 まとまりないし目茶苦茶。こんなこと言ったって、どうしようもないのに。 陽高様に、紗奈が一番だ、とでも言われれば、私は救われるのだろうか。 「他の人より劣ってると思うと恥ずかしくて。私何もできないし綺麗でもないしスタイルだってよくないし…」 「やめろ。」 自棄になりながら言いつつも悲しくなっていた時、陽高様の低い声が私の肩を揺らした。 「非常に不快だ。」 「ご…めんなさい…。」 やってしまった。 陽高様は風邪を引いているのにこんな話に付き合わされて。ああもう言わなければよかった。もし図星だったら落ち込んで立ち直れなくなるのは私なのに。もしそうじゃなくても陽高様にとってこんな話不快以外の何物でもないのに。 「何を考えている。」 延々と後悔して俯いていた私を、陽高様は正面から抱きしめた。 その広い胸に、頭を押し付けられる。 「ずっとそんな風に思っていたのか?」 「……。」 答えられずにいると、頭上から大きな溜息が降ってきた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |