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impatient


「何もしないなんて、私が無理です。」

紗奈は笑っていた。
可笑しそうに漏れる小さな息。

言動にやや驚きつつ立ち尽くしていると、紗奈は困り顔で首を傾げた。

「女性からベッドに誘われるのはお嫌いですか?」
「いや」

そんな訳はない。即答したが、俺の答えなど紗奈にはとうにわかっていたようだ。口元に刻まれた笑みが語る。






幾度も抱き合ったであろうベッドの上。
いままで経験したいつよりも緊張している。
組み敷いた紗奈は、俺の緊張すら理解しているように、優しく見守っていた。
その様子は先程とは打って変わって、母性のようなものを感じさせた。彼女は俺よりも年下なのに。包み込むような慈愛に満ちたそれは、まるで聖母だ。

「…今日は、優しくする。」
「ん、っ……」

触れるたびに漏れる声。
どこをどうすれば彼女が喜ぶか、体が覚えているような錯覚。
だが正直戸惑いもある。知っているはずなのに知らないのだ。過去の俺と比べられることは必至。
けれど耳に届く甘い声は俺の理性をかき乱して、夢中にさせていく。

「紗奈、紗奈……」
「あ、あ……陽高様……!」

ふと、髪を撫でられた。
見ると紗奈は紅潮した顔で微笑む。

「優しくしようとしないで、好きにしてください。」

心臓が鷲掴みにされた。
今すぐ貪り尽くしたい。欲望の全てをぶつけたい。衝動をなんとか抑え込む。

「しかし…」
「大丈夫ですから。今の陽高様なら大丈夫です。」

俺がどれほどの気持ちで耐えたか露程も知らない紗奈は「それに」と続ける。

「私の全ては貴方のものです。」

穏やかな笑顔で放たれた文言に、虚を衝かれる。

「君にそこまで言わせる自分が恐ろしいよ。」

でも、そうだな。

「なら、俺の全て君のものだ。」

そんな関係も心地よい。



ああ、何だろう、この気持ちは。
温かい。
俺はこの感情を知っているはずだ。
いや、知っている。
これは………

「紗奈。愛してる。」


こんなにも自然に口から漏れ出る言葉だったのか、と知る。

同時に、壮絶な既視感に襲われた。


俺は、この先を知っている。

「私も、愛しています。陽高様。」

伸ばされる腕と、笑みながら閉じた瞳。

重なる唇の感触。


俺はこれを知っている。




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