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impatient


住み慣れた部屋に戻り、羽織っていた上着を外すと、メイドは慣れた手付きでハンガーにかける。

ソファに体を投げ出し、背もたれに両腕を任せて深く息を吐いた。



そこである疑念が湧く。

いつもならこのタイミングで亜希が緑茶を持ってくるのだ。今日はそれがない。

大体、家に着いた時点で、大澤か亜希のどちらかになるはずなのに、何故今日は新人なのか。




しばらくしても、去る様子も、何かする様子もない。

さすがに不審に思い、ちらりと見遣ると、目が合ったメイドはニコリと笑った。



――ああ、そうか。
久々の新人だから忘れていた。
待っていたのか。わざわざ病院に来てまで……――


合点がいったが、気力がない。
車移動のみでも疲れた。
寝過ぎたせいで体力も落ちているのだろう。


「今日は下がれ。」
「え、はい……。」


戸惑った様子のメイドは、チラチラとこちらを見ながらも静かに部屋を出て行った。


時刻は16時。


刻む秒針を眺めていたはずが、気付けば短針が2周していた。

――確か俺はずっと眠っていたのではなかったか。それなのによくもこれほど眠れたものだ……――


腕をだらりと下げ、少し痛くなった肩を回していた時、小さくノックの音が響いた。

顔を覗かせたのは先程の新人メイド。



夜までずっとこの調子か。

病み上がりだというのに何を考えているんだ。何も考えていないのか。

アピールは悪くないが、体力がないところに気分だけ乗せられても。


「夕食の準備ができてますけど……食べられますか?」
「ああ。行く。」



夕食の席には、珍しく父と母が揃っており、3人前が並べられている。

俺の分は少なくしてあるようだった。

正直、流動食だろうと思っていたが、そこはシェフの腕の見せ所だったようで、全員同じメニューにしてある。いつもより薄味でも十分に美味しい。


「陽高、体調はどうだ。」
「問題ありません。」
「お父さん、これでも結構心配してたのよ。」

ふふふと笑う母と、むっとした父。

「無理しちゃ駄目よ。しばらくは会社のことも気にしないで、ね?」
「会社へは、明日にでも。」
「だーめ。ねえあなた?」
「無理かどうかは自分でわかるだろう。」


今は会社をさらに成長させる大事な時期だ。多少無理でも、休んでいる場合ではない。

明日は行くと宣言して、夕食は終わった。

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