impatient 2 住み慣れた部屋に戻り、羽織っていた上着を外すと、メイドは慣れた手付きでハンガーにかける。 ソファに体を投げ出し、背もたれに両腕を任せて深く息を吐いた。 そこである疑念が湧く。 いつもならこのタイミングで亜希が緑茶を持ってくるのだ。今日はそれがない。 大体、家に着いた時点で、大澤か亜希のどちらかになるはずなのに、何故今日は新人なのか。 しばらくしても、去る様子も、何かする様子もない。 さすがに不審に思い、ちらりと見遣ると、目が合ったメイドはニコリと笑った。 ――ああ、そうか。 久々の新人だから忘れていた。 待っていたのか。わざわざ病院に来てまで……―― 合点がいったが、気力がない。 車移動のみでも疲れた。 寝過ぎたせいで体力も落ちているのだろう。 「今日は下がれ。」 「え、はい……。」 戸惑った様子のメイドは、チラチラとこちらを見ながらも静かに部屋を出て行った。 時刻は16時。 刻む秒針を眺めていたはずが、気付けば短針が2周していた。 ――確か俺はずっと眠っていたのではなかったか。それなのによくもこれほど眠れたものだ……―― 腕をだらりと下げ、少し痛くなった肩を回していた時、小さくノックの音が響いた。 顔を覗かせたのは先程の新人メイド。 夜までずっとこの調子か。 病み上がりだというのに何を考えているんだ。何も考えていないのか。 アピールは悪くないが、体力がないところに気分だけ乗せられても。 「夕食の準備ができてますけど……食べられますか?」 「ああ。行く。」 夕食の席には、珍しく父と母が揃っており、3人前が並べられている。 俺の分は少なくしてあるようだった。 正直、流動食だろうと思っていたが、そこはシェフの腕の見せ所だったようで、全員同じメニューにしてある。いつもより薄味でも十分に美味しい。 「陽高、体調はどうだ。」 「問題ありません。」 「お父さん、これでも結構心配してたのよ。」 ふふふと笑う母と、むっとした父。 「無理しちゃ駄目よ。しばらくは会社のことも気にしないで、ね?」 「会社へは、明日にでも。」 「だーめ。ねえあなた?」 「無理かどうかは自分でわかるだろう。」 今は会社をさらに成長させる大事な時期だ。多少無理でも、休んでいる場合ではない。 明日は行くと宣言して、夕食は終わった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |