Non Stop部屋
5
「ゆっくりしたいし………俺んち来ませんか?俺、一人暮らししてるんです………」
部屋に誘われるのは期待していい証拠?
っていうか、期待って何だよ。
もう後には引けない。
部屋に行ったら俺は………
ダメだと理性が警告を出しているのに、俺は政宗について行ってしまった。
「お邪魔しまーす………ってか、俺より良い部屋住んでるな」
「家からの仕送りがあるんで」
うちも同じ1LDKなのに、広さもデザインも違っていて羨ましかった。
「上着…………」
「あ、ありがとう」
政宗は俺のスーツをハンガーに掛けた後、自分の学ランも掛けた。
部屋は綺麗に片付いているし、ちゃんとしている一面を知った。
「夕飯ってまだですよね?」
「あ、うん」
「すぐ出来るの作るから座って待ってて下さい」
「あ………りがと」
ははは………情けない。
俺はキョロキョロとソワソワと落ち着かないでいるのに、政宗はさらっと行動してペースを握られてるよ。
俺はタイを緩めながらカウンターキッチンの椅子に腰掛けた。
何を作ろうか考えてあったんだろう。
動きに無駄がない。
政宗の後ろ姿を眺めながら心地好い包丁の音を聞いていた。
「ちゃんと料理もするなんて偉いね………」
「………佐助さんが料理巧かったから、俺もするようになったんです………」
「ッ………」
政宗がこっち向かなくて良かった………。
今の俺、きっと酷い顔してるよ。
弛んでしまった口元は手で隠したが、熱くなった顔が冷めるのは少し時間がかかりそうだ。
まさかこんな一言で照れるとは思わなかった………
俺はどうかしてる。
手際の良い政宗は、すぐに食欲をそそる香りの料理を俺に持て成してくれた。
「おぉ〜♪焼きうどん!いただきます!」
「どうぞ」
俺も料理が好きだから味には煩いけど、これはホントに美味しい。
「美味しいよ!政宗」
「良かった………」
俺の感想を聞いて安心したのか、政宗も俺の隣に来て一緒に食事をした。
不思議な感じだ………
6年振りに会った子の家で手料理を食うなんて………。
それも、一度は記憶から消したのにまたこうして出会うなんて………。
俺は横目でちらりと政宗を見た。
小さくて可愛かった政宗は、美人で色気のある政宗に成長していた。
いや待て。
男に色気を感じるなんて、
俺はどうかしてる。
「洗い物くらい俺やるよ」
「いいですよ。佐助さんはあっちで休んでいて下さい」
すっかり手持ち無沙汰だ。
ソファーに腰掛けたが、落ち着かない。
ラブホでシャワーを浴びて出てくる女を待つ心境か?
ってか、俺はそればっかだな。
…………あんなに否定し続けたのに………
何度も頭の中で犯した映像が甦った。
感度の良い白い肌………
涙を溜めながらとろんとした表情………
だらしなく開いた口から洩れる喘ぎ声………
『もっと………佐助……さ……ん』
「────………佐助さん」
「ッ!?」
呼ばれて我に返った。
「佐助さん大丈夫?疲れてる?」
「いや………ごめん……お腹いっぱいでボーッとしてた」
ヤバイ。
意識が思いっきり飛んでた………
「………何か飲む?」
「そんな構わなくていいから政宗もこっち来なよ」
「ん………」
下心ありありでついて来たってバレてるかな?
警戒されてるかな………
いや、待て俺!
何する気だよ!
「…………」
政宗は俺の斜め右の床に座った。
「…………」
何から切り出そう。
僅かな沈黙はとても重苦しい。
「話したいこといっぱいあるはずなのに………」
政宗は机に視線を落としながら口を開いた。
「………何を話していいか分からない」
「ん…………」
「………佐助さんと再会出来たのが本当に嬉しくて………」
俺も………とは言えない。
だって、会わないようにしていたのは俺だから。
「佐助さん…………」
そんな熱っぽく呼ばないでくれ。
「会いたかった………」
あぁ…………
政宗はあの時の約束を憶えているんだ………
そして………
「…………政宗………」
「…………」
上目遣いの潤んだ瞳。
ほんのり赤くなった頬。
今もあの約束を叶えたいと願っているんだ………
過ちは犯してしまえば一度も二度も変わらないか………?
「政宗…………こっちにおいで………」
もう戻れない。
俺の覚悟を決めた一言に、政宗は小さく頷き、俺の横へ腰を下ろした。
俺の小さな理性よ、さようなら…………
俺はこれから同じ過ちを重ねようとしている…………
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