太陽と月の距離
鼓動












「ゲホッ……な、何……?」






男は地面に倒れていた。






ぶつかる瞬間、男の体は宙を舞ったのだ。









「ハッ───」

「ぐっ!くそ!」






幸村は呆気に取られていたが、我に返り、男を捩じ伏せた。








「大人しくしろ!」

「チッ………」







幸村は馬乗りになりながら、男の持っているティッシュを取り上げて小袋に入った粉を確認した。






「麻薬所持容疑の疑いで署に連行する!」







カチャリと後ろ手に手錠が掛けられた。










「ふぅ……………あっ!怪我はありませんでしたか!?」




男を捕らえることが出来てホッとしたが、もう一人この場にいたのを思い出した。





「Ah〜何ともねぇよ」




幸村の一連の動きを見ていた男は急に声を掛けられて少し驚いた表情をしたが、







「あ、あなたは!!」




幸村は更に驚いた顔をした。












そこに立っていたのは、初めての新宿勤務で見掛けた男だった。






気になって気になって、また会えないかと歌舞伎町に来る度、人に目を配っていたのだ。





あれは夢だったのかも……と思いを塞いだのに、ここで再会を果たした。










「どこかで会ったか?」

「あ、いや、その、合気道か何かですか?」

「ただの護身術だよ………じゃあな」






男は踵を返した。








「あの!」





男が憶えていないことは予想していたが幾分ショックだった幸村は男を呼び止めた。







「助かりましたっ」

「別に……目障りだっただけだ」





(美しい…………)






幸村は男の顔を近くで見つめて生唾を飲み込んだ。







「お礼に……食事でも……」

「フッ……男に向かって……変な奴」





自然と口に出た言葉に白い歯を覗かせた。






「あ、いやっ!その」

「ククッ………」





幸村は自分の言葉にも男の笑みにも赤くなってしまった。








「携帯は?」

「えっ────」

「メシに行くなら連絡先が必要だろ?」

「あっ……その……持っておりません……」

「マジかよ!?……Ah〜……なら書く物あるか?」

「はいっ!」






幸村はポケットを探り、手帳を取り出した。




男はそれを受け取り、さらさらと書いた。







「今時携帯を持ってないなんて……ホント変な奴」




笑みを向けて手帳を返した。





「あ……りがとうございます……」






幸村は瞬きすら出来ずに顔を見つめながら受け取った。






「じゃあな」





男は歩みを進めた。








「あっ……某は真田幸村と申します!」

「……伊達政宗だ」






背中を向けたままひらひらと手を振って夜の街へ消えていった。












「伊達……政宗………」





耳に残る声を反芻した。








喉が渇き、鼓動は速いまま……

背中がゾクゾクとし、興奮が高まる感じがした。







「……政…宗………」















×××××××××××××××

オマケ



「……なぁ、お巡りさん……いい加減オレから降りてくんねぇ?」

「……ぬぉ!?すまぬ!!」




幸村は取り抑えた男から慌てて降りた。




「あ……真田です!身柄拘束しました!」

『遅いー!!応答もせずに何をしていたのだー!!』

「すすすみませぬ!!」




イヤホンから上司の声が響いた。




その後、応援が駆けつけてからも説教を食らったのだった。

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