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小説 3
阿部君の10年計画・11
 ドラフト5位で、関東の球団に入団できたオレは、球団の寮に入って野球漬けの毎日を送った。
 阿部君は会社の近くにワンルームを借りて、一人暮らしを頑張ってた。
 大学では寮でも部活でも一緒だったから、いきなりほとんど会えなくなって、すごく不安で淋しかった。でも、将来のためだから、って思うと頑張れたんだ。
 オレの心の中には、いつも阿部君と、阿部君との約束があった。

 『どうすれば別れないですむか』

 3年で結果を出す。
 胸を張って、ずっと一緒に過ごすために。
 それにはやっぱり、今やるべきことを精一杯、手を抜かないでやるしかないよね。
 周りに反対されたくないし。

 オレの場合は、オレがプロになれたのも阿部君のお陰だって、両親もじーちゃんも認めてくれてるから、大丈夫だと思う。
 オレも阿部君も、当たり前だけど、女の子と噂になった事1度もないし。
「真面目な好青年、って印象を植え付けるんだぞ」
 って、阿部君は高校時代からずっと言ってた。
 皆に、信用されるんだって。

 うん、阿部君の計画通り、うちはお父さんもお母さんも、そしてじーちゃんも! 阿部君に任せておけば大丈夫だって言ってくれてるよ。
 皆が阿部君のコト褒める度、おれ、すっごく誇らしくて胸がほわんって温かくなるんだ。
 瑠里も、やっぱり協力してくれてて。事あるごとに、「レンレンは阿部君と住んだ方がいいわね」って言ってくれる。
 瑠里にこう言わせるのも、実は阿部君の計画の一つだ。
 人間、繰り返し同じ意見を聞かされてると、それに慣れて、そういうもんだって考えるようになるんだ、って。
 ホントかどうかは分からないけど、少なくとも、群馬の親戚達には効果があったみたい。勿論、じーちゃんが賛成してくれてるっていうのも大きいと思うけど。

 やっぱり、阿部君はスゴイなぁ。
 色んなことを知ってて、そして、瑠里やじーちゃんや、色んな人に影響与えてる。
 それに比べて、オレの方はどうなんだろう?
 阿部君は、「お前は野球だけ頑張ればいいぞ」って言ってくれてるけど……オレは、阿部君のお父さんやお母さんに、認めて貰ってるのかな?
 「三橋君と一緒なら安心だ」って、思って貰えてるのかな?
 シュン君は……瑠里や修ちゃんみたいに、オレ達の味方になってくれてるのかな?


 この間、すっごい久し振りに阿部君に会えた。うんと……1ヶ月振りくらい。
 オレはキャンプや遠征で忙しくて、土日もあまり休みじゃなくて。阿部君も仕事頑張ってて残業続きで、忙しかったから、仕方ないよね。
 別れないために、今、頑張るんだって……目標がちゃんとあるから頑張れるんだと思う。
 高1から10年、就職して3年。期間が決まってるから、頑張れるんだ。もしその約束が無かったら、オレ、会えなくて寂しくて不安で、崩れちゃってたかも知れない。

 毎日阿部君からはメールを貰ってたけど、やっぱりメールより、本物がイイよね。
 オレもう、顔を見るなり嬉しくて、阿部君に抱きついちゃった。阿部君は苦笑して、「オレも会いたかった」って言ってくれた。
 そんで、1ヶ月分のキスして、1ヶ月分のえっちした。

 会えない間は、阿部君を想いながら一人ですることもやっぱりあるけど、もうオレ、その……前だけじゃ満足できない体になっちゃったみたい。
 自分で指とか入れてみたけど、それじゃダメで。
 阿部君の、太くて、硬くて、狂暴なの入れて欲しくて。恥ずかしいけど、もう阿部君なしじゃ、ダメなんだ。
「じゃあ、太くて硬くて、狂暴な動きするオモチャ買ってやろうか」
 阿部君はそう言ってニヤッと笑ったけど、オモチャじゃダメなんだ。阿部君がいいんだよ。阿部君も、きっと分かって言ってると思うけど。

「阿部君がいい、んだ。オレには、阿部君だけだ」

 そう言ったら、阿部君は「オレも一緒に決まってんだろ」って、朝までいっぱい抱いてくれた。
 オレはうっとりと、阿部君の胸に縋って、幸せに浸った。
 野球をやってる時も、美味しいもの食べてる時も、それなりに幸せだけど。やっぱり、阿部君と一緒にいるのが、オレにとっては1番の幸せだなぁ。
 オレにこうやって幸せをくれる阿部君に、オレからも幸せをあげられてればいいなぁ。

 それで……思い出したんだ。
 阿部君の家族は、どうなったのかなって。
 オレんとこと同じように、オレ達が一緒にいるコト、少しは認めてくれつつあるのかな、って。

 ちょっとドキドキしながら、阿部君に訊いてみた。
「阿部君のお父さんやお母さんは、オレのコト、認めてくれてる?」
 阿部君は笑って、「当然だろ」って言ってくれた。
「お前の頑張りを認めねぇ奴なんていねーよ」
 って。
「うへ」
 嬉しいな。お世辞でも、そうやって褒めてくれるの嬉しい。ホントに認めてくれるなら、もっと嬉しいけど。

「し、シュン君に、応援頼んだの?」
 オレがそう訊いたら、阿部君はニヤッと笑った。
 そして、言ったんだ。
「シュンに吹き込んであるのは、別のことだ」

 阿部君は、自分が実はゲイなんだ、って……シュン君に言い続けてたんだって。もう何年も前から。
 そしてそれはシュン君の口から、おじさんやおばさんに伝わってて。

「オレが、女より男が好きな人種なんだってコトは、うちの家族はもう知ってる」

 そう言って阿部君は、くくく、と笑った。
 お陰で女っ気が無いのも怪しまれないし、見合いしろとか結婚しろとか、そんな風にも言われないって。
 もう、「好きに生きろ」って、諦めの目で見られてるって。

 オレ、凄く感動して、感心した。やっぱり阿部君はスゴイなぁ!
「お、オレも、そうしておけば良かった!」
 興奮してそう言ったら、阿部君は「バーカ」と、オレのおでこを指で突いた。
「2人いっぺんじゃ、怪しまれんだろ。ゲイなんて、その辺にそうそう転がっちゃいねーよ」

「うお、そうか!」
 さすが阿部君は、考えてることが深いなぁ。

「オレはゲイで、お前にずっと惚れてた。お前はノーマルだけど、オレにほだされた。そういう設定でいーんじゃねぇ?」
 阿部君の言葉に、オレはうんうんとうなずいた。
 阿部君に任せておけば、安心なんだなぁって、しみじみと思った。

(続く)

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