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小説 3
阿部君の10年計画・12 (完結)
 入団して3年。これまでにも数回、1軍で投げる機会は貰えてた。でも、なかなか定着まではいかなかった。
 それでも腐らずに頑張れたのは、やっぱり阿部君がいてくれたからだ。
「大丈夫、お前ならやれるって」
 そう言って貰えるだけで、すっごく力が湧いて来て、地道なトレーニングにも耐えられた。

 だから、正式に1軍ローテ入りが決まった時、親よりも誰よりも、真っ先に阿部君に連絡したんだ。
 阿部君は仕事中だったけど、すぐにオレに電話してくれた。
『おめでとう、やったな』
 そして、こう言った。
『オレも、4月から主任だぞ』
 って。

 阿部君、最短で出世が決まったんだって。
 残業もすっごく頑張って、雑用も積極的にこなしたって。企画に参加した時も、自分ばかり目立たないで上司を立てて、作業の効率化を図るんでも上司の顔を立ててあげたんだって。
 能あるクイは、上手に隠れて打たれないんだって。……よく分かんないけど。
 でも、とにかく、阿部君がスゴイってコトだよね。


「一緒に住もうか」
 って、ようやく言ってくれたのは、4月に入ってからだった。
 昇進の内示は貰ってたけど、正式に発表されるまでは何があるか分からないからって思ったんだって。
「昇進しても、してなくても、阿部君がスゴイのに、変わりない、よっ」
 オレはそう言ったけど、阿部君は「ケジメだかんな」って笑った。
 でも、その気持ちもちょっと分かる。
 オレだって、阿部君が認めてくれてればイイって思うけど、やっぱりチームの上層部の人に認めて貰ってるのとじゃ、嬉しさが違うし。
 これからもっともっと頑張って、2軍落ちとかしないようにしないと。

『どうすれば別れないですむか』

 一緒に住むことが決まっても、やっぱり、考えずにはいられないんだ。
 阿部君と同居し始めてから成績落ちたとか……そんなの、誰にも思わせたくないし。オレ自身だって、思いたくない。
 だったら……もっともっと、これからも頑張るしかない。
 阿部君も、きっと同じだと思う。
 きっと、もっともっとお仕事も残業も頑張るよね。

 阿部君が探してくれた物件は、どれもセキュリティーのしっかりした物件だった。
 でも、オレが1番気に入ったのは、6月に竣工するって言う、新築のマンション。
 5階建てのこじんまりした2LDKなんだけど、2部屋ずつが区切られてて、階段もエレベータも、その2部屋で使うんだ。
 幸い5階の隣り合った2部屋が空いてたから、そこを二つとも買おうって言った。
 これなら、下の階の人達のことはあるけど、お隣さんとか気にしなくていいし。1部屋に男2人が住んでるって、噂されなくてもイイ。

 お金がもったいないって言われるかと思ったけど、阿部君も賛成してくれた。
「お前も考えるようになったなぁ」
 だって。
 配球以外で阿部君にそんなこと言われるなんて、スゴイ褒め言葉だよね!?

 2部屋分の家賃は、正直ちょっと不安だった。でも、驚いたけど、じーちゃんが頭金、出してくれることになったんだ。
「あのしっかりした青年と一緒に住むんだろう」
 じーちゃんは、阿部君をスゴク気に入ったみたい。
 2部屋分のマンションの、保証人にもなってくれた。
 それから……阿部君の実家にも、挨拶に行ってくれたんだ。


 阿部君のお父さんもお母さんも、阿部君のことは諦めてる……って、阿部君は言ってたけど。諦めてるっていうよりは、やっぱり怒ってたみたい。
「隆也のことはうちと関係ない」
 おじさんは、最初そう言ってた。
 でも、じーちゃんと何やら話してて、それでちょっとは考えが変わったみたい。

 どんな話をしたのかは、オレも阿部君も、知らないんだ。じーちゃんに追い払われちゃったから。
 それで、シュン君に車で送って貰って、オレの実家に行くことにした。
 車の中で、シュン君とちょっと話した。
「兄ちゃん達、いつから付き合ってたの?」
 シュン君に訊かれて、びっくりした。何で分かったの、って。
「見てれば分かりますよ」
 そう言ってニヤッと笑うシュン君、阿部君にそっくりだ。やっぱり兄弟なんだなぁって、感心した。

「じゃあ、兄ちゃん、やっぱりホントはゲイじゃなかったんだね」
 シュン君にズバッと言われて、阿部君は「まあな」ってニヤッと笑ってた。
 シュン君は、気付いてたけど黙って協力してくれてたんだね。優しいなぁ。お兄さん思いだなぁ。

「これからも協力してあげるからさ、代わりに三橋さんの球、受けさせてよ」

 シュン君はニヤニヤ笑いながら、阿部君に頼んでた。
 阿部君は「はあー?」って言ってたけど、オレは「いいよ」って応えたんだ。だって、何か阿部君っぽかったし。
 オレの球受けたいとか……そんな可愛い頼み事も、野球しか見えてないみたいな感じで、阿部君にそっくりだなぁって思った。


 オレの両親は、笑顔でオレ達を迎えてくれた。
「阿部君、いらっしゃい」
「いいのかしら、廉ったら、これからも阿部君のお世話になる気満々みたいで」
 阿部君は、すごく真剣な顔で言った。
「とんでもない、オレ達は対等です」
 そして……座ってた座布団から降り、それを脇に押しやって、リビングのフローリングの上に土下座した。

「オレ達には互いの存在が必要なんです。だからどうか、この先も一生、一緒にいさせて下さい!」

 オレ、横で聞いててびっくりした。
 だって、まさか、こんな……こんな風に、両親に言ってくれるなんて思っても見なかった。
 しかも、それが今日だなんて。
 オレの両親も、驚いてぽかんと口を開けてた。

 びっくりだよね、そりゃ驚くよね。でも、お願いだ、反対しないで欲しい。オレ、もう阿部君と別れたくないんだよ!
 オレ、両親の反応が怖くて、ぎゅっと目を閉じて息を詰めた。
 重い沈黙を破ったのは、阿部君だった。

「突然のことで、驚かれたと思いますが……」
 阿部君は、土下座したまま言いかけたんだけど、お父さんが「いやいや、驚いたのは違うんだよ〜」って、軽い口調で言った。
 じーちゃんの予告通りだったから、びっくりしたんだって。じーちゃん、きっと阿部君がそう言って来るだろうって、予想してたんだって。

「オレ達も、まさかそんなって半信半疑だったんだけどねぇ、いやあ、ホントびっくりしたよ」

「ふ、え……?」
 オレも阿部君も、驚いて顔を見合わせた。
 結論から言うと、オレの両親は、オレが幸せならそれでいいんだって言ってくれた。
 きっとじーちゃんが、よく分かんないけど、そうしてあげなさいとか口添えしてくれたんじゃないのかなって思う。

 こんな展開は、さすがの阿部君も想定外だったんじゃないのかな?
「お前のじーさんは、スゲーな」
 阿部君は、ため息をついてそう言った。
 うん、じーちゃんはスゴイと思う。行動力も、パワーも、迫力も半端ない。
 味方になってくれたら、こんなに心強いけど。でも、一歩間違って敵になってたら……きっと同じだけのパワーで、オレ達、引き離されてたんじゃないかってぞっとする。

 そう考えるとね、やっぱり結局は、阿部君がスゴイってコトになると思うんだ。
 だって、阿部君がじーちゃんに気に入られたお陰だもんね。
 大学の寮に、見合い写真抱えて乱入してきたじーちゃんに……「廉君はオレが守ります」って言ってくれたからだよね。

『あの青年を大事にしなさい』

 じーちゃんに言われたことを思い出す。
 オレは、心の中で、うんって思う。

「じーちゃんも阿部君も、スゴイなぁ」
 オレが言うと、阿部君は。
「何言ってんだ、スゲーのはお前だろ」
 そう言って、ニヤッと笑った。

  (完)

※もふもふん様:フリリクのご参加、ありがとうございました。リク最後ということで、大変お待たせして申し訳なかったです。「将来の安定を画策する阿部」ということで、高1から社会人4年目までを書かせて頂きましたが、ちょっと後半ダラダラだった気もします。でも、この画策阿部・黒キモい阿部にかかれば、大きな事件とか起こらないような気もするんです〜。また、「ここをもうちょっと」などの細かいご要望があれば修正しますので、おっしゃって下さい。

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