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小説 3
阿部君の10年計画・9
 少しずつ味方を増やしていこう、って阿部君に言われたのは、高1のバレンタインのケンカ事件の後だ。
 あの時、田島君や花井君が協力してくれなかったら、オレ達、ダメになってたかも知れない。
 それに、野球部の他のメンバーも……協力まではいかなくても、やっぱり色々フォローしたり、黙認したりしてくれてた。
 秘密は重い。だから、やっぱり、知っててくれる人がいるのは、とっても心強いんだ。

 急に言ったら、反発されたり反対されたり嫌悪されたりするかも、だから、ゆっくり仲間にしていこうって、阿部君は言った。
 阿部君は、多分まずシュン君に。オレは、ルリと修ちゃんに、会う度それとなくほのめかした。

「阿部君といる時が、一番楽しいんだ」
「オレ、女の子は怖いし、阿部君の方が好きだ」
「阿部君がキャッチャーやってくれるなら、オレ、負ける気しない」
「阿部君と二人で初詣行くんだよ」
「阿部君と一緒の大学で、寮でも一緒なの嬉しいな」
「卒業しても阿部君と一緒にいたい」
「将来は、できたら阿部君と一緒に住みたいなぁ」

 高1の時から、会う度に一言ずつ。オレは阿部君の指示に従って計画的に、阿部君の話を2人にしてった。
 オレが、阿部君の話しかしない、って、2人に思わせるのが大事なんだって。
 阿部君しか眼中にないって。

 そして。
「もうそろそろ、よくねーか?」
 阿部君からゴーサインが出たのは、しつこく球場に通って来る、あの女の子のコトがあった後だった。
 彼女は春季リーグの間も、やっぱり球場に押しかけて来てて……だからオレ、瑠里に相談したんだ。
「困ってるんだ、オレには阿部君がいる、のに」
 って。

 瑠里は、不思議がらなかった。
『レンレンって、やっぱりそうなんだ』
 そう言って、瑠里は電話口でため息をついた。
『迷惑してるらしいよ、って私から言ってあげてもいいけど、まさか男と付き合ってるから、なんておじーちゃんに言えないでしょ、どうするの?』
「う、と……」
 阿部君との打ち合わせを思い出す。
 阿部君の計画では、10年。10年で……オレは。

「ぷ、プロで1軍に入れたら、ちゃんと紹介する」

 その為には、まず大学でやっぱりエース狙わなきゃ、だし、もっともっと頑張らなきゃ、だけど。
 でも。
「阿部君がいれば、オレ、頑張れると思うんだ!」
 そう言うと瑠璃は、またちょっと呆れたようにため息をついた。
『まあ、頑張ってね。応援してあげなくもないからさ』
 瑠里の言葉に、オレは大きくうなずいた。

 瑠里がどう説得してくれたのかは分からない。でもその後、あの女の子が押しかけて来ることはなくなった。


 4年生の春には、もう阿部君は、東京の企業から幾つか内定を貰ったみたいだった。
 頭の回転も速いし、成績もいいし、礼儀正しくてハキハキしてるから、当然かもだけど。就職難だっていうのに、やっぱり阿部君はスゴイなぁ。
「でも、お父さんの会社は、いいの?」
 オレがそう訊くと、阿部君は「約束だろ」って応えた。

 『どうすれば別れなくてすむか』

 親や親戚のコネに頼らない就職をする。
 それも、阿部君との約束の一つだ。
 同性愛なんていう究極の我がままを通すには、まず自立して見せなきゃならないって。
 そして10年で……大卒3年目で。1つ、何か結果を出すんだって。

 阿部君のお父さんは、特に自分の会社に入るように、とは言って来てないみたいだったけど……オレのじーちゃんは、オレに三星を手伝って欲しいらしかった。
 ――って、お父さんから遠まわしに聞いた。教員免許取ったんだろ、って。じーさん喜んでたぞ、って。
 そりゃ一応取ったけど、でもそれは三星に入る為じゃない。自立するためだ。
 それに……オレはやっぱり、野球をやって行きたかった。
 だから、秋までは全力でやりたい。
 下位指名でいい、プロになりたい。指名じゃなければ、育成枠でも。それも無理なら、社会人チームで投げながら、しつこくプロを目指したい。
 野球のことだけ考えたい。阿部君も、それがいいって言ってくれた。

『どうすれば別れなくてすむか』

 それには、やるべきことをちゃんとこなす。
 勉強も野球も、私生活も頑張るって。恋愛にうつつを抜かしたせいで、失敗したって言われないようにって。
 そうして、オレも阿部君も頑張って来た。
 その頑張りは、皆、分かってくれてると思ってた。認めてくれてると思ってた。

 でも……。
 じーちゃんは、やっぱり頭が固かった。
 頭が固くて、強敵だったんだ。
(続く)
 


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