小説 3
阿部君の10年計画・5 (前半ちょっとR15?)
期末試験が終わって、ようやく部活も解禁になった。
テストも1教科1教科帰って来て、赤点もなくてほっとした週末――約束通り、阿部君がうちに来た。
約束通り、滅茶苦茶にされた。
そして約束通り……写真を撮られた。
撮られるまで、オレ、阿部君が何の写真を欲しがってるのか分からなかった。分かってたらОKしなかったのに。……多分。
おかしいと思ったんだ。いつもはすぐに裸に剥かれるのに、今日はカッターシャツをはだけられただけで、全部は脱がされなかったから。
阿部君に散々貫かれて、いいように揺さぶられて、息も絶え絶えになった時にシャッター音を聞いて、ハッとした。
ハッとして目を開けた時には、目の前にケータイも何もなくて、最初気のせいかと思ったんだけど……でも、シャツを脱がされた後も、後ろ向きにされた後も、何度もカシャッて音がした。
間違いないよ、阿部君、えっちの最中のオレを撮ってる。
「や、だ、そ、な写真……」
そう言っても、阿部君は「誕プレだろ」って言うだけで、全然やめてくれなくて。
抵抗もできないくらい、オレはもう溶けちゃってて、のろのろと顔を隠すしかできなかった。
でも、その仕草も阿部君を煽ったみたいで、シャッター音の後、攻める動きが激しくなった。
「はぁ、かわいーぞ、三橋、三橋っ」
色っぽく囁いて、オレを抱き締めながら突き上げる阿部君。
夢中になってくれるの分かると、震えるくらい嬉しい。
求められてる幸せ。
「ああっ、阿部君、好き、好き……」
意識が途切れそうに激しくされて、乱れて、もうオレの中身、阿部君でいっぱいで。
大好き。
恥ずかしい写真を撮られても好き。
恥ずかしいけど、オレの写真欲しがって欲しい。他の人の写真、欲しがらないで欲しい。
何でもあげるから。全部あげるから。
欲しがられたい。求められたい。
代わりに――阿部君の未来が欲しい。
えっちする度に無茶苦茶にされながら、オレはずっと、そんな風に考えていた。
その写真のことを思い出したのは、何年も経った後のことだ。
高3の夏の活躍のお陰で、オレと阿部君は野球推薦を貰い、同じ大学に進学した。そして同じ野球部の寮に入って、同じ時間を一緒に過ごした。
西浦から進学したのはオレと阿部君の二人だけだったけど、全国から集まった新しい仲間は、皆スポーツマンらしく、さっぱりとしたイイ人ばかりだった。
大学の合宿では、男ばっかり大勢集まってるから、どうしても下ネタが飛び交ってた。
エロ本の回覧も交換も堂々としてた。でも、オレ達は一切それに手を触れなかった。
「何でぇ? お前ら、ノリ悪いぞ」
先輩に文句を言われることもあったけど、そんな時、オレはいつもこう言ってた。
「すみません、オレ、女の子怖くてダメ、で」
これ、阿部君が考えてくれたセリフだ。でも半分は事実だった。
一方の阿部君は、高校の時から一貫してこう言ってた。
「オレ、女に興味ねーんで」
そのセリフを、先輩も誰も疑わなかった。
いや、最初は疑ってたんだろうけど、だんだん信憑性を持って来た、というか。
というのも入学早々、先輩女子マネの美人さんを、阿部君がふっちゃったんだ。ふったっていうか、相手にしなかった、っていうか。
その人の露骨な誘い方には、横で見てるオレも真っ青だったけど……谷間モロ見えのキャミ姿でうろつかれても、阿部君は目も向けなかった。
へそ出しのちびTに腰骨丸見えのショートパンツには、「寒々しいっすね」とか言ってたし。パンチラ見せられた時には、スゴク汚いモノ見たような顔して見せた。
なびかれても困るけど、ちょっとだけ先輩に同情した。うん、阿部君のフリ方はヒドイと思う。
ヒドイとは思ったけど、でも、オレは喜ぶべきなんだよね。だって阿部君が美人さんの誘いを断るのは、オレの為なんだし。
オレが……やっぱりどうしても、阿部君と別れられないから、なんだし。
高校の時もそうだったけど、言い寄る女の子を片っ端から手ヒドくふってくもんだから、阿部君に「女嫌い」って噂が立つのも早かった。
「女に興味ねーんで」
合コンとかも、そう言って断ってたし。
だから、そのうち誰も、阿部君に女の子の話とか振らなくなった。
でもある時、先輩の一人が、珍しく食い下がったんだ。普段そんな人じゃないんだけど、その時はかなり酔っぱらってたみたい。
「じゃーお前は何で抜いてんだよ?」
先輩はエロ本を拒否した阿部君に、空気読めよな、とか言って、無理矢理写真を見せようとした。
そしたら阿部君は、ニヤリと笑って言ったんだ。
「ズリネタなら持ってんですよ」
そして、その酔ってる先輩を手招きして、その人だけに、ケータイを見せた。
先輩は「キャー」と叫んだ。そして、別室へと消えてった。
オレも心の中で「キャー」って叫んだ。だって、思い出したんだ。高1の冬に、阿部君がそのケータイで何を撮ったか。
まさかまさか、まさかだよね?
まさかオレの恥ずかしい写真、見せてないよね?
オレが真っ青になってるのに、阿部君はすぐに気付いて、こそっと教えてくれた。
「大丈夫、お前の顔が写ってるヤツじゃねーから」
そう言って、ニヤッと阿部君が笑ったから……ああ、大丈夫なのかな、ってちょっと思った。
『どうすれば別れなくてすむか』
高1の時に考えようって約束してくれたこと、阿部君は今でもまだ守って、ちゃんと考えてくれていた。
その為には、女の子に興味を示さないこと。
オレも阿部君も、ホントはノーマルな健全男子だ、けど。女の子の裸に興味ある風なんて、あれから絶対見せないよう努力してきた。
これはきっと、その延長線上のことで……だったら、阿部君の想定の範囲内だったのかも。
それから、先輩はもう阿部君に絡まなくなった。
けど、オレへの態度は特に変わらなかったから、阿部君の言った通り、オレの写真じゃなかったのかも知れない。
分からない。
だって先輩は、「何も覚えてない」って言ったから。「酔ってたからな」って。
オレの顔が写ってるヤツじゃないって……えー、どこが写ってるの、かな?
高1の――付き合い始めのあの頃は、ホントに無我夢中で阿部君が大好きで、無茶苦茶に抱かれるのが嬉しくて、阿部君に酔ってて、いつもされるがままだった。
あ、今もそれはそうだけど。
でも、写真を撮られた時も、オレは阿部君の激しいえっちに夢中で、だから、どんな顔やどんなシーンを何枚撮られたかも把握できてないんだ。
阿部君には「見るか? きれーだぞ」って言われたけど、結局見る勇気はなかったし。今もないし。
だからね、阿部君が先輩に、どんな写真を見せたのか、何を見て先輩が「キャー」と叫んだのか、オレはずっと知らないままだ。
でもそれ以来、誰も二度とオレ達にエロ本を無理矢理見せようとしなかったんだから、良かったんだよね。助かったよね。
阿部君は……すごいよね。
(続く)
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