小説 3
阿部君の10年計画・4
2学期の期末試験に向けて、野球部でも恒例の勉強会が始まった。けど、オレと阿部君は、あまり参加しなかった。
全部欠席だと怪しまれるから、英語と古文・漢文の時だけちょっと参加しようって。
で、それ以外の時は……もちろん、オレの家で、2人だけで勉強した。
ちゃんと問題が解けてたり、暗記できたりしてたら、ご褒美にってキスして貰えた。
勉強の合間には息抜きにって、ちょっとエロいこともした。
えっちはしないけど、触りっこしたり、舐めっこしたり。
「オレはヤリてーけど、それでお前を疲れさせたり、起きてらんなくさせたりしちゃ、元も子もねーもんな」
そう言って阿部君は、オレのために、えっちしたいの我慢してくれた。
こんな時でも、オレのコト一番に考えてくれる阿部君は、ホントに優しいと思う。
阿部君と別れたくない一心で、オレ、秋の約束の日以来、少しずつ家でも勉強してた。野球と一緒で、日頃の積み重ねが大事なんだぞ、って阿部君も言ってたし。
お陰で数学も、基礎の計算問題だけなら一人で解けるんだよ。
ぶ、文章問題は……また別次元な感じだ、けど。
でも、基礎問題だけで30点あるから、1つも間違わなければ一応は赤点回避、だ。
数学のテストは大問が全部で4つあって、問1が計算問題、問2が教科書レベルの簡単な文章問題。問3がセンター試験レベルの文章問題、問4が大学の2次試験レベルの問題……なんだって。
シガポがそう言ってたぞ、って、阿部君が教えてくれた。
「問2くらいまでは解けるようになっとけよ」
阿部君は当たり前みたいにそう言うけど、文章をよく読んで式を出すまでが、オレには難しい。
でも確かに、それができたって全部で40点くらいしかないんだから、ホントはもっと先まで解けなきゃいけないのかも?
まだ高1なのに、大学入試レベルの問題なんて……。そう言ったら、阿部君が「お前なー」って苦笑してた。
高2高3では、もっと別のコト習ってどんどん難しくなっていくんだから、数Tの範囲の問題は、数T習ってる内に解けなきゃダメなんだぞ、って。
そんな先のことまでちゃんと分かってて、遠くを見ながら足元の勉強ができる。オレには無理だ。やっぱり阿部君はスゴイなぁ。
そんなスゴイ阿部君の誕生日は、期末試験の真っ最中の12月11日なんだって。
いつもオレなんかのコト大事にしてくれてるお礼に、誕生日にはいっぱいお祝いしたかったけど……よりによって、数学のテストの前の日だなんて。
せめてプレゼントくらいは用意したいなと思って、阿部君に何が欲しいか訊いてみた。
そしたら、「お前の赤点回避」だって。
「う、そ、そんなの、プレゼントじゃない、よっ」
オレがそう言ったら、阿部君はくくっと笑って。
「じゃー、数学平均点以上」
「む、ムリです」
阿部君も、ムリって分かってたみたい? っていうか、言ってみただけだった、みたい?
「即答かよ」
って、はははって笑われた。
むぅー、っとむくれてたら、阿部君は「変な顔」って言いながらキスしてくれた。
あ、まだ問題解いてないのに、キスして貰っていいのかな?
ぽーっとなりながら阿部君の舌を感じてたら、唇を離した阿部君が、耳元で言った。
「じゃー、期末終わったら、無茶苦茶ヤラせて」
オレは胸がキューンとなっちゃって、阿部君のたくましい胸に抱き付いた。
「そんなの、それだって、プレゼントじゃないよっ」
ホントは今すぐ無茶苦茶にして欲しかったけど、試験勉強中だし、きっと「ダメ」って言われると思って、口に出せなかった。
こいつ淫乱だな、なんて呆れられるのも怖かった、し。勉強しないならもう帰る、とか言われるのも怖かった。
仕方なく黙って胸に甘えてたら、阿部君は優しく頭を撫でてくれた。気持ちいい。
好きだなぁって思う。大好き。
「三橋、オレのコト好き?」
頭を撫でながら、阿部君が訊いた。
「うん、大好き……」
オレは阿部君に抱き付いたまま、小声で応えた。
「だからプレゼント、何でもあげたいんだ」
「そっか、あんがとな」
阿部君は優しく笑って、また、ちゅっと軽くキスしてくれた。
しばらく勉強に集中してたら、阿部君が「あっ」って言った。
「プレゼント、思いついた」
って。
最近、ずっと欲しいなーって思ってたモノ、思い出したんだって。
何? って訊いたら、写真だって。
「お前の写真、1枚撮らせて」
ケータイを出してそう言ったから、てっきり今撮るんだと思ったけど、違った。
阿部君はあっさりとケータイ、ポケットにしまっちゃったんだ。
「え、撮らない、の?」
オレが訊いたら、阿部君はニヤッと笑って、こう言った。
「取って置きの1枚を撮りてーから、試験が終わってからな」
そんで、オレの手をキュッと握って。
「オレが撮りてー時に、ちゃんと素直に撮らせてくれよ。ダメとか、無しだぞ?」
そんなの、ダメなんて言うハズないのに、って思った。
だから素直に、「うんっ」ってうなずいた。
オレの写真なんて、そんなのがプレゼントに欲しいなんて安すぎるって思ったし。
「阿部君、遠慮しなくていいんだ、よっ!」
オレがそう言うと、阿部君は機嫌良さそうにニヤッと笑った。
「おし、今の言葉、忘れんなよ!」
阿部君が機嫌いいと、オレも嬉しい。
オレはやっぱり「うん!」って素直にうなずいて……そして。
「む、無茶苦茶にもしてくれる?」
って、小さな声でおねだりした。
(続く)
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