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小説 3
漆黒王と幻の伴侶・13
 早急に呼びつけた魔女姫の国の使者は、全面的に謝罪して、今回の賠償の8割を負担すると約束した。
 まあ、そりゃそうだ。あの女が犯人じゃなかったとしても、ここに毒物を大量に持ち込んだのは事実だし。その管理だって、完璧じゃなかった。
 残りの2割は、あの料理長の始末として、オレの国が負担することになった。
 脅されたとか、家族が人質に取られたとか、そんなことも喚いてたみてーだけど、残念ながら何の証拠も出て来なかった。
 白魔導師がいれば、もうちょっと詳しく訊き出す術もあんのかも知んねーけど、多忙で戻れねーっつーんなら仕方ねぇと思う。
 まあ、別に急ぐことはねぇ。
 奴の犯行に理由があったにしろ、なかったにしろ、地下牢送りは確定だし。賠償2割も確定だ。

 魔女姫は、呼びつけた国の使者と共に、強制送還って事になった。
 帰りのあいさつで、玉座の前に現れた顔を見て、ちょっと驚いた。
 いつもは毒々しいくらいの赤い唇に、真っ黒な目元をしてたけど……化粧を落として見たら、小さな目に小さな口の、スゲー地味な顔だった。
 そのままの顔の方がいいぞ、って、言おうかと思ったけどやめた。もう、関係ねーし。
 オレは何も言わず、魔女姫一行が退出するのを見届けた。

 そんで、女狐も帰ることにしたらしい。
「陛下は私のような女、お気に召さないのでしょう?」
 女狐は、相変わらず斜め下から見上げるような目つきで、オレの顔をじっと見た。
 据え膳食われなかった事、やっぱ相当根に持ってんのか。
「あのフリルとレースのねんねちゃんみたいな、未成熟の子がお好きですの? それとも、きれいな少年の方がお好みなのかしら?」
「いや……」
 イヤミったらしく言われてとっさに否定したけど、何でかな、ちょっとドキッとした。


 女狐や大臣や他の来賓なんかは、白魔導師から伝授されたとか言う、ミズタニ特製の飲み薬で、1晩の内に回復した。
 けど、メス猫娘だけはなかなか回復しなかった。
 考えて見りゃ、今回の被害者の中で、あいつが一番年少だ。他の大人達と比べて、毒が効き過ぎたりってのはあるかも知んねー。
 回復するまで城に置いて下さい、っていう先方の要望も、突っぱねることはできなかった。

 オレだって、好きであの女を長逗留させてる訳じゃねぇ。
 なのに、連日のようにミズタニが「追い出せ追い出せ」ってしつこく言うから、その内とうとう口論になった。
「お前の薬が効かねーせいだろ。白魔導師も大したコトねーなあ!? もっとババッと回復させる魔法とかねーんかよ?」
 そうミズタニを責めたら、ミズタニは不愉快そうに顔をしかめ、「効かないハズないよ!」と言った。

「飲んでないに決まってるし、そもそも、リコリスの毒で、回復がこんなに遅いってのも有り得ないよ。あの子の自作自演だと思うけどね」

「はー? 何でそう思うんだよ。根拠は?」
 思わず詰問すると、ミズタニはぐっと言葉に詰まり、ぷいっと顔を逸らした。
 そして、あろうことか、こう言った。
「あの子が魔女だからだよ。根拠なんて、それで十分でしょ」
 ムカついた。
 何でか、それを聞いて、スッゲームカついたんだ。

「何でもかんでも魔女呼ばわりすんのはやめろよな! この間はメス猫とか言ってたくせに、ちょっと気に入らねぇからって、今度は魔女かよ! いい加減にしろ!」

 オレはそう怒鳴って、ミズタニを執務室から追い出した。
「ホントなんだよ、あの女は早く追い出さなきゃダメなんだよ!」
 ミズタニはそう何度も言ってたけど、聞く耳持ってやらなかった。

 冷静になって考えてみれば、賠償問題とか、連日の会議とかで疲れてたんだと思うんだ。
 で、一番近くにいたミズタニに、八つ当たりした。ただそんだけの話だったと思う。
 でも……次の日から、ミズタニはわざとらしくフードを深く被って、オレと目を合わせもしなくなった。こんなんじゃ謝る気にもなれねぇで、オレもヤツに話しかけんのをやめた。
 何か、目に見えない力が働いて、悪い方へ悪い方へ引っ張られてる……そんな気がした。
 それが、決定的に最悪になったのは、国内外に噂が流れ始めてからだ。


『王の結婚が近いらしい。婚約者の姫はすでに輿入れを済ませ、今は花嫁修業中らしい』

 冗談じゃねぇつって、スゲー焦った。
 デタラメもいいとこだ。一体、誰がそんな噂を流したんだっつーの!
 そりゃ、見合い相手の中で唯一残ったのはあの女だけど……消去法で「はい、結婚」って訳にいかねーだろ!?
 噂を本気にした、メス猫娘の国の親からは、丁寧な親書付きで結納の品まで送られて来た。

「即行送り返せ!」
 外務大臣に命じたけど、大臣は「そんな訳にもいきません」つって、渋い顔をした。
「あらぬ誤解があったとはいえ、仮にも国家間のやり取りでございますから。送り返すにも、それ相応の手順がございます。まずは、誤解を解くべく、先方へ親書を」
 ふざけんな、つって怒鳴りたかったけど、大臣の言う通りなんで諦めた。
 でも、気持ち悪くてイライラしたから、断りの親書を外務大臣に直接持ってって貰うコトにした。
 確実に行って貰う為に、防衛大臣も付けた。
 ホントは、メス猫娘本人にも帰って貰いたかったけど、「ベッドからも起き上がれない」とか、「一進一退です」とか医者にまで言われちゃ、強制送還もできなかった。

 即位して4年、初めてのパニックだった。
 賠償問題に、各来賓との交渉。魔女姫の国との交渉。料理長の尋問。噂の流布。メス猫娘の病状、白魔導師の不在。ミズタニとの不仲……。
 相談したくても、誰も側にいなくて。
 こんな時、誰かいたと思うのに、誰を頼ってたんだかまるで思い出せねぇ。思い出そうと記憶を探んのも、もう疲れた。
 夜もろくに眠れなかった。

 呪われてるみてーだった。

(続く)

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