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小説 3
漆黒王と幻の伴侶・11
 昨夜のやり取りがあったせいだろうか、今朝のミズタニは機嫌よかった。
 三人の女達とメシ食ってる間、オレと目が合うたびに、へらへらと笑顔を寄越してくる。
 逆に、3人の女たちはスンゲー不機嫌だった。
 どう不機嫌かってーと、やかましいくらいのお喋りが一つもねぇってくらい不機嫌だ。

 女狐がオレのこと、じっとり睨みつけてんのは分かるとして。なんでメス猫娘にまで睨まれなきゃいけねーんだ?
 そんで。何で魔女姫は、食事も殆ど食わねーまま、じーっとうつむいたままなんだ?

 久々に静かなメシ時だったってのに、何か気分がのらねーで朝メシを終えた。
 昼メシも似たような感じだった。女狐とメス猫は互いに睨み合いつつ、オレのコトも睨んで来てた。
 魔女姫はやっぱり浮かない顔で、女狐やメス猫に睨まれたって、気付いてもねぇ。
 食欲もねぇのか、フォークで料理をつついてるだけだ。気のせいか、髪に飾ったリコリスまで、しおれてるように見える。

「食欲ねぇのか? 朝も食ってねぇだろ」
 気になってつい訊くと、魔女姫はびくっと顔を上げ、オレと目が合うと、ぽっと頬を染めてうつむいた。
「へっ、陛下が私に喋りかけて下さったの、初めてですね……!」
「あー、そうだったか?」
 気にしてなかったから、覚えてねぇなー。
 そう言うと、魔女姫はずいっとこっちに身を乗り出してきた。
「ご心配ありがとうございます。陛下の、私を思って下さるお心のお陰で、もう大丈夫な気がして参りましたわ!」

「あー、そりゃ……良かったな」
 いきなりいつもの押せ押せで来られると、引きたくなっちまうのはどうしようもねーけど、こっちから話しかけた手前、まさか逃げる訳にもいかねーし。
 助けを求めてミズタニを見ると、スゲーおかしそうに笑っててムカついた。
 あいつ、オレのボディーガードじゃねーんかよ? ピンチの時には助けに来いっての。
 ふと殺気を感じて女達の方をに目を戻す、と。女狐とメス猫が、まるで結託したかのように、オレと魔女とを睨みつけていた。

『女の執念はスゴイんだよ?』
 昨日の夜の、ミズタニの言葉を思い出す。
 ちょっとぞっとして……うんざりした。


 その後は、珍しく静かな午後だった。
 デスクで仕事を片付けてる間、誰も邪魔しに入って来なかったからだ。
 まあ、今日は「お待ちかね」の舞踏会だからな。3人の女も大臣も、準備に忙しいんだろう。
 そんなに派手にするつもりはねーつっても、大勢の賓客は呼ぶんだろうし……こういう機会に踊りたいって奴はいっぱいいるらしいし。
 そういう連中に踊って貰って、オレはメシ食いながらいつもみてぇに――いつも、みてぇに、1人で――1人で――?
 ――1人で、眺めてるだけでいーんだけどな。

 ミズタニも珍しく、機嫌いいのに静かだった。執務室のソファにエラソーに座って、ずーっとへらへら笑ってる。
「お前も出んのか? 舞踏会?」
 言いながら、今までどうだったかな……と思うけど、どうでもいい奴の顔はホント覚えてねぇから、思い出せねぇ。
「うーん、オレか師匠か、どっちか出ると思うけど」
 ミズタニの軽い返事に、お、っと思う。

「白魔導師が来んのか?」

「さ〜、まだ分かんないよ〜。オレに行かせてくれるかも知れないし〜。毒入りじゃなかったら、ご馳走イイよね〜」
 まだ毒がどうとか言ってんのか。
 オレはちっと舌打ちをして、仕事を再開させながら、へらへら顔の魔法使いにイヤミを言った。
「お前が来るんなら、またフードで顔、隠しとけよ。そのへらへら顔、来賓に失礼だかんな」
 けど、ミズタニはイヤミとも感じてねぇんだろうか。機嫌良さそうな声で、「ひどっ」と言っただけだった。


 ご馳走につられたんだろうか、それとも白魔導師が表に出て来んのをイヤがったのか? 舞踏会の前の大宴会に出席してんのは、ミズタニだった。
 オレに言われた通り、ちゃんとフードを深く被ってる。
 毒がどうとか言ってたくせに、やっぱり琥珀の指輪をつけてねぇ。
 末席の方に座る姿を見て、あれ、と思う。いつもは、もっと近いとこに座ってなかったか? いや――いつもの、朝メシなんかと勘違いしてんのか?

 オレのすぐ近くには、左側には大臣達が、右側に見合い相手の女達が座ってる。
 女達の気合いの入り方ったら、恐ろしいくらいだった。
 女狐のダイヤはいつも通りギンギラだったけど、メス猫娘も、ヘッドドレスがキンキラだった。でも何より驚いたのは、魔女姫だ。
 ドレスは相変わらず赤系が好きなようだったけど、髪飾りがいつもの生花じゃねぇ。小さなルビーをいっぱいつなげた、凝った細工のリコリスだった。
 というか……やっぱ、あくまでリコリスなんだな。
 その妙なこだわりがおかしくて、目が合った時につい笑いかけると、魔女姫がドレスと同じぐらい真っ赤な顔になって、また余計におかしかった。

 ふと、ミズタニが席を立って、大広間を出て行くのに気が付いた。
 まだ食事も始まってねぇってのに、って思うけど、へっぽこ魔法使いに文句言うために、来賓の前で大声出す訳にもいかねーし。
 早く戻って来いよなー、とか思いつつ、グラスを掲げて「乾杯」をする。

 一斉に食事が始まって……カモ肉に添えられたマッシュポテトを食べようとした時、突然左手がビリッと痺れた。
 何だ?
 ナイフとフォークを置いて左の袖を覗いて見ると、そこに輝いているのは、黒曜石のブレスレット。
 何だよ?

 顔を上げて魔法使いの席を見ると……ミズタニが、こっそり座ろうとしてるところだった。
 左手にはでかい指輪がハマってて、ああ、指輪を取りに行っただけかと思う。
 だよな、生花のリコリスを持ち込んでねーなら、その琥珀の指輪で、毒予防ができるもんな。

 けど、その指輪……昼間見た時より、何か白っぽく見えねぇか?

 ハッとしてオレが立ち上がるのと、大臣以下大勢の人間が口を押えて席を立つのと……ほとんど同時だった。
「うわ、毒だ! 食べちゃダメだよ!」

 遅ればせながら、ミズタニが叫んだ。

(続く)

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あきゅろす。
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