小説 3
オレとあいつと猫ガイド・7 (完結)
オレは三橋の、ふわふわの頭にぽんと手を置いた。
「お前さ、やな奴じゃねーよ」
三橋はびくん、と体を跳ねさせ、おそるおそるオレを見た。
「オレ達さ、いいバッテリーになれそうじゃね?」
にかっと笑ってやると、何故だか三橋は、ちょっとびびった顔をした。けど、小さな声で言った。
「オレなんか、が、野球して、いいの、かな?」
オレは、ははっと笑って、三橋の肩に腕を回した。
「いいに決まってんだろ!」
すると三橋は、変な顔でふひひ、と笑った。
「あ、始まんぞ」
オレは三橋の肩を抱いたまま、グラウンドに注意を向けた。
白練習着の西浦ナインと、黒練習着の相手ナインとが、それぞれのベンチの前で円陣を組んでる。
西浦のベンチは向こう側だから、何言ってっか分からねぇ。
けど、大きな声で「おーっ!」と聞こえた。
車が、ガクンと揺れた。
「うわっ」
体が前に投げ出されそうになって、ギョッとして目が覚めた。
「何だよっ!」
咄嗟に文句を言うと、「悪ィ、悪ィ」と、悪いとも思ってなさそうな声で親父が言った。
「猫が飛び出してきた」
「猫ー?」
「あ、ホントだ。こっち見てる」
左隣に座ったシュンが、おかしそうに言う。
シュン越しに左の窓の外を見ると、大きなトラ猫が、さっと走って行くところだった。
トラ猫……。
一瞬、何か大事なことを思い出しかけた。
何だったっけ?
トラ猫が、何か……。
けど、記憶の中を探そうとすればする程、その何かは細かく千切れ、水底へと沈んでいく。
もっかい寝たら思い出すか?
そんなバカな事考えて、目を閉じようとした時……ケータイのバイブが鳴った。
「ちっ、誰だよ?」
メールの差出人を見て、さらに顔をしかめたくなる。
榛名元希。
今、シニアチームでバッテリー組んでる、ノーコンオレ様ピッチャーだ。
今日の関東大会、こいつが気のねぇピッチングして、さらにマウンド放り出したせいで負けた。
そのくせ反省の色も出さねーで、「オレのせいで負けた訳じゃねーし」とか、悪びれもしねーで言ってのけた。
その榛名が、一体オレに何の用だ?
まさか、白々しい謝罪でも書いて来たんじゃねーだろうな?
イヤイヤながら、メールを開く。
――明日、集合8時だって。遅れんなよ――
何だ、それ?
「誰が遅れっかよ! てめーじゃねーっつの!」
悪態をついて、パタンとケータイを閉じる。
あー、そうだよな、分かってたよ。謝罪なんか、キャラじゃねーもんな。
ちらっとでも期待したオレが、バカみてーじゃねーか、畜生。
ムカつく。
投手なんて、やな奴ばっかだ。
けど……。
なんでかな、野球辞めてぇとは、思わなかった。
(完)
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