小説 3
暗黒の穴・6 (完結・ちょっとR18くらい?)
アパートの鍵をカチャッと開けて、オレがドアを大きく開く。
玄関に入ってすぐ、左がミニキッチン、右がユニットバスのワンルーム。
九州から戻る時に、要らない物は全部処分したから、ここにはオレの物しかねぇ。帰って寝て、たまに仕事するだけの部屋だ。
内鍵を閉めて、靴を脱ぐ。
狭い玄関。オレのすぐ目の前に、三橋が立っている。薄茶色の猫毛の頭が、ホントにオレの前にある。
「三橋……」
腕を伸ばしてギュッと抱き締めたら、三橋が大きく息を呑んだ。
柔らかな髪を撫でながら、顔を上向かせ、視線を合わせる。
真っ暗な目じゃなくて、ほっとする。
ほっとしたら、何か嬉しくて、オレは自然にキスしてた。
ちゅっと音を立てながら、軽く口接ける。柔らかな唇に、痩せた頬に、そして、額にも。
「この間も言ったけど」
オレは三橋を抱く腕を緩め、背中を押して、部屋の奥まで連れて行った。
「お前を取り戻してぇ」
セミダブルのベッドの上に三橋を座らせ、その前に立って言った。
「お前の顔ばっかちらついて、ずっとお前の事ばっか考えてた。すんげぇ後悔したんだ。大変な事しちまったって」
三橋は、大きなつり目にオレを映したまま、黙っていた。
ベッドの上に押し倒し、しっかりと目線を合わせて告げる。
「好きだ」
三橋は何か言おうとしたのか唇を開き、けど、何も言わねぇまま閉じた。
構わず口接ける。舌を差し入れると、応じるように三橋が口を開けて、甘い舌を絡めてくる。
何度も何度もキスを繰り返しながら、オレはゆっくり三橋の服を脱がした。三橋も、オレの服を脱がした。
そうして裸で触れ合えば、温かかった。血が通っていた。
切なくて、恋しい。
オレがちゃんと勃起してるのを見て、触って確かめて、三橋が小さな声で「良かった」と言った。
「オレ、まだ、抱いて貰える?」
「当たり前! だろ!」
どんなに抱きたかったか、分からせる為には、抱くしかない。
言葉よりも謝罪よりも、多分、三橋は……オレに抱かれる事を願ってる。
多分。だから。
オレは、余計な謝罪も言い訳もしないで、愛だけ囁いて、ゆっくり三橋に侵入した。
貫かれる瞬間、三橋は大きく目を開けて、オレを見て、オレを呼んだ。
「阿部君っ」
そして、オレの背中に手を回し、強くしっかりしがみついた。
温かくて狭い粘膜の道を、張り詰めたオレが拓いていく。ぐ、ぐっと奥まで腰を沈めて、それからゆっくり動かすと、三橋がたまらず甘い声で喘いだ。
「あ、あ、あ、べ、君」
オレの攻めるリズムに合わせて、三橋が泣いてるような、啼いてるような、声を漏らす。
快感に浸るように、うっとりと目を閉じて、でも時々しっかりとオレを見つめて、そしてまた安心したように目を閉じる。
誰でもよかったなんて、多分嘘だ。
だってこいつはこんなに、こんなに、オレを求めてる。確かめてる。
「あ、べ、君、んん、あ、阿部、君っ」
オレがオレである事を、何度も確かめて。今、確かに阿部隆也に抱かれてるんだと、何度も確かめて。
「あべくん、んっ!」
三橋は、オレの名を呼び続けた。
売春アパートの階段にいた、歯の欠けた男の言葉を思い出す。
――泣き王子は、誰に抱かれても、淋しいと言って泣くらしいから――
ならオレは、やっぱり三橋の特別だって、うぬぼれてもいいのかな。
三橋はやっぱり泣いたけど。オレに抱かれて、涙ぽろぽろこぼしたけど。でも。
最後に言ったんだ。過去形で。
「淋しかった、よ」
だったら。
過去形でそう言えるんなら。
もう今は、淋しくねーのかな?
これで、三橋の心の穴は、埋まったと思っていいのかな?
オレがもう二度離れねぇって、信じて貰えたかな?
体の穴は、これから何度も……朝までも、昼までも、オレがギチギチに埋めてやるから。
淋しいなんて、言う暇ねーくらい、ギチギチに埋めてやるから。
(完)
※マイマイ様:フリリクへのご参加、ありがとうございました。もっとライトな感じがお望みだったでしょうか? ハッピーエンドになりそうもなくて大焦りでしたけど、なんとかまとまったような? 気に入って頂ければいいのですが。
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